東京オリンピックが閉幕し、また新たにたくさんの歴史が刻まれた。

飛び込み競技でも、玉井陸斗選手が7位入賞という素晴らしい結果を残してくれた。10m個人種目での日本男子の入賞は21年ぶり。これからの飛び込み界を引っ張ってくれるスターが誕生した瞬間だった。

特に決勝では「これぞオリンピック」というハイレベルな戦いが繰り広げられた。しかしそんな中でも、彼はトップ選手に引けを取らない堂々とした演技を披露。弱冠14歳にして、世界中の人の心にその名を知らしめた。

オリンピックでは、まだ1度もメダルを獲得していない日本の飛び込み界。3年後のパリでは悲願のメダルも夢ではないと、期待が膨らんだ。

飛び込み競技は、女子は5本、男子は6本の異なる演技を順番に飛び、その合計点数で競う採点競技。そのため予選では2~3時間という長丁場になることも珍しくない。その時間をどのように過ごすかは選手の自由だ。

今回のオリンピックでは、男子10mシンクロで金メダル、10m個人でも銅メダルを獲得した英国のトーマス・デーリーの過ごし方に注目が集まった。大半の選手が、音楽を聴いたり、座ってリラックスした状態で過ごす中、なんとデーリーは編み物をしていたのだ。ネットやSNSでは、その愛らしい姿や編み物のクオリティーに、大きな反響が寄せられた。

オリンピックという大舞台。4度目の出場である彼にとってはもう慣れた場かもしれないが、その余裕ある姿に、オリンピックを経験している誰もがうらやましさすら感じたのではないだろうか。

正直、私にはその余裕が無かった。オリンピックはもちろん、オリンピック出場のかかった大会でさえ、足が震える始末。その時に毎回「いつも通り」ということの難しさを感じていた。

彼は、観客席から応援するときにも、合間に編み物をする姿がテレビに映っていた。きっと彼にとっては、その姿が「いつも通り」なのだろう。

私にもそういった発想があれば、もう少し余裕を持って世界と向き合えたのではないかと今更ながらに感じている。

今回は、世の中の状況的にも、耳に入ってくるのは温かい応援の言葉ばかりではなかった。ただでさえ大きなプレッシャーのかかるオリンピック。選手は行き場のない感情や、今までにないストレスに、心が折れかけた日々もあったはずだ。

そういったことも乗り越え、大会当日を迎えた選手たち。競技を終えた後の安堵(あんど)の表情や、あふれ出す涙を見て、ここにたどり着くまでの努力や、大きなプレッシャーに耐えてきた背景を感じずにはいられなかった。そして、お互いをたたえ合う姿。スポーツを通して、人間の限界を超える戦いの美しさは、涙なしでは見られなかった。

私もこういう中で戦ってきたのだと、誇らしい気持ちを感じたと共に、この感動こそがスポーツの素晴らしさなのだろうと思った。

私も何度も人から言われたり、自分にも言い聞かせてきたことだが、オリンピックの舞台で戦うこと自体が、本当にすごいこと。メダルを獲得した選手だけではなく、出場したすべての選手が胸を張り、これからの人生を歩んでいってほしいと願っている。

そして、今大会を開催するにあたり、大会関係者の方々や多くのボランティアの方々のご協力があってこそだと、本当に感謝の気持ちでいっぱいである。このような状況下にもかかわらず、いつも笑顔で温かな声援を送り続けてくれる姿に、どれだけのアスリートが救われただろうか。

スポーツは「する側、観る側、支える側」がそろって初めて成り立つものだということを、改めて感じた大会だった。

まもなく、パラリンピックが開幕する。選手にとって、応援の力は想像以上に大きなものとなって心を支えてくれる。引き続き、温かな声援を送り、選手の活躍に期待したい。

(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)