飛び込みを始めたのは小学校1年生の時。3人兄妹の末っ子でもある私は、外遊びや水遊びが大好きなわんぱく娘だった。飛び込みは、そんな私にはピッタリな競技。母は、そう思ってプールに連れて行ったが、やらせるかどうかを悩んだこともあったそうだ。

それは、私が「アトピー性皮膚炎」だったから。

生まれた時から症状はひどく、首やシワの間は赤くただれ、いつもじくじくしていた。常にタオルで拭いていないと衣類がベタベタになるほどだったという。

乳児の皮膚はバリア機能が未熟であるため、アトピー性皮膚炎を起こしやすいといわれている。特に汗のかきやすい時期には、痒(かゆ)みや発疹で肌が荒れやすいのが特徴だ。しかし、まだ未熟な肌に使える薬は少ない。

そこで母はいくつかの皮膚科を受診した。ある病院では、「なるべく汗をかかないようにし、プールなども控え、即効性のある薬を使って治しましょう」という診断を受けた。しかし、別の病院では、「普通の子と同じように遊び、食べ物や衣類に気をつけて、肌の免疫機能を高めて治していきましょう」という診断だった。

前者は即効性はある。しかし、そこで母が選んだのは後者の治療法だった。

それからは、アトピーに効く可能性がある事は何でも試してみる日々が始まった。

まずは、食事。野菜をしっかりと取り、栄養バランスの良い食事を毎日手づくりしてくれた。おやつもなるべく市販の物は買わず、クッキーやケーキなど、家で作ってくれた物をよく食べていた記憶がある。

そして、アトピーで一番つらいのが痒み。その痒みを抑えるために、「よもぎ」がいいと聞けば、よもぎの濃縮液を入れた真っ黒なお風呂に入り、「にんじん」がいいと聞けば、にんじんのジュースを毎日飲んだ。薬もなるべく強い薬は使いたくないというのが母の思い。その信念から病院には頼らず、副作用のない優しい薬や、自然由来のもので私の体に合うものを探した。

プールでは汗の心配はなかったが、塩素による肌の乾燥が症状を悪化させることもあった。特に夜中に痒みが増すことが多く、朝には血だらけになっていることも日常茶飯事。夜中のかきむしりの予防のために、関節などひどい箇所には、包帯をぐるぐる巻きにして寝たこともある。しかし、それも無駄な抵抗だった。

つらかったのは、そのかき傷がプールに入るとしみて痛いことだった。小学生の間はずっと続いた。しかし、幼少期から食べるものや抵抗力の上がるような生活をしてきたことが功を奏し、中学生になる頃には、徐々に症状は改善されていった。その後も、アスリートとしての規則正しい生活が続き、自分がアトピーであることを忘れるほどまでになっていた。

しかし、残念なことに子供たちに遺伝してしまったのだ。

それでも、医学の進歩により朗報はあった。先日、4歳の娘を皮膚科に連れて行った時に、「世界初のアトピー性皮膚炎の薬」が日本で開発されたということを知った。それは「コレクチム軟膏(なんこう)」という薬で、「皮膚の過剰な免疫反応を抑え、皮膚の炎症をしずめて、アトピー性皮膚炎の皮膚症状を改善してくれる」という効果があるものだった。

綿100%の衣類と、朝晩の保湿は欠かせないが、この薬の効果もあり、長女の症状はだいぶ良くなってきた。しかし、まだ5カ月の次女には使えない薬。

アトピー性皮膚炎の予防には、“規則正しい生活や、日頃から保湿を中心としたスキンケアを行うことが最も大切”だと言われている。今、次女にしてあげられることは、これを徹底してあげること。

昔は一目でアトピーだと分かるほどひどかった私の肌。しかし、今ではアトピーだったことが分からないほどにまでに改善された。

女の子にとって、肌はとても大切な部分のひとつ。何が正解なのか分からず、悩むことも多いが、遺伝してしまった以上は、向き合っていくしかない。私も母と同じように「忍耐強く」そして「信念を持って」彼女たちが将来、生き生きとした日常を送れるようサポートしていきたいと思っている。

(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)