3日に終了した世界水泳の飛び込み競技で、女子3mシンクロの銀メダルに続き、もう1人歴史的快挙を成し遂げたのが玉井陸斗(15=JSS宝塚)だ。

記憶にも新しい昨年の東京オリンピックでは、14歳という若さで出場。大きな期待を背負いながら、男子10m個人で7位入賞を果たした。そんな日本の飛び込み界のホープである彼が、今回も期待を大きく上回る銀メダルを獲得してくれた。

男子高飛び込みで銀メダルを獲得した玉井陸斗(左)(ロイター)
男子高飛び込みで銀メダルを獲得した玉井陸斗(左)(ロイター)

大会が始まる前から練習動画をSNSにアップするなど、調子の良さをうかがわせた。現地に入っても、そのまま調子を落とすことなく試合を迎え、予選、準決勝ともに3位で通過。一気にメダルへの期待が高まった。

決勝では1本目からしっかりとノースプラッシュで決めたものの、7位発進。男子のレベルの高さを感じさせるスタートだった。2本目に飛んだのは、本人も苦手意識のある207B(後ろ宙返り3回半えび型)。何とか失敗を最小限に抑えたが、その小さなミスが響き8位に後退。残すは4本。ここから挽回できるのかと不安に思ったが、その後の追い上げが本当に素晴らしかった。

3本目の演技は、世界の男子選手でも成功させるのが難しい109c(前宙返り4回半かかえ型)。ここで決めれば上位に食い込めるという期待が高まる中、迷いもなく力強く踏み切った。高さ、回転力、そして最後の入水まで完璧に決まった。ほぼ全員のジャッジが10点満点中9点を出し、得点は99.90。強豪である中国勢を抜き、一気に1位へと躍り出た。

そこからもミスを最小限に抑え、最終ラウンドへ。最後は得意とする5255B(後ろ宙返り2回半2回半ひねりえび型)。ここでも勝負強さを発揮し、95.40点をたたき出した。会場中から沸き起こる拍手。誰もが認める圧巻の演技で銀メダル獲得となった。

ライバルたちも玉井の演技を見て、笑うしかないといった表情で惜しみない拍手を送っていた。

男子高飛び込みで銀メダルを獲得した玉井陸斗の演技(ロイター)
男子高飛び込みで銀メダルを獲得した玉井陸斗の演技(ロイター)

今大会で彼のすごさを感じたのは、予選、準決勝、決勝と合計得点が上がっていることだ。この大舞台で安定した演技を見せるだけではなく、一番プレッシャーを感じる決勝で、ベストパフォーマンスを発揮することがどれだけ難しいことか、想像すれば分かるだろう。

それだけではなく、試合中の表情からはリラックスしているような笑顔も見え、試合を楽しんでいる余裕すら感じた。これだけでも、彼が人並み外れた才能の持ち主だと誰もが感じるだろう。

東京オリンピックが終わり、各国が若手の育成にシフトしつつある中でも、男子のレベルはとても高い。特に中国は、2番手や3番手の選手でもメダルを取れるほど層が厚い強豪国。

飛び込み競技では、個人種目に各国2人ずつ出場できるが、必ずと言っていいほど上位3人の中に中国の選手が2人とも入ってくる。そのため、どの国も打倒中国という思いを秘めながら頑張っているが、その中国の一角を倒しての2位というのは非常に価値が高い。

表彰式後には、コーチの元へ駆け寄り、メダルをかけてあげる姿がとても印象的だった。コーチと供に2人3脚でつかみ取った銀メダル。2人の信頼関係や絆が見えた瞬間だった。

世界でも跳躍力とフォームの美しさに定評がある玉井。彼のこれからの成長と活躍を世界中が楽しみにしているだろう。

そして、パリに向かって着実に演技に磨きがかかっていることは間違いない。彼の目標であり、日本の飛び込み界にとっても悲願であるオリンピックでのメダル獲得へ、また1歩近づく大会となった。

(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)