「ONE TEAM」。全国を粛々と回っている東京五輪聖火リレー。25日に京都でランナーを務めたラグビーの田中史朗は人さし指を出して言った。「辞退も考えた」と話したほどだから、その言葉に込めた思いも強かったはずだ。

まだ、2年もたっていない。19年秋、アジアで初めて開催されたラグビーW杯は、日本を1つにした。出身も、言葉も、文化も、異なるバックグラウンドを持つ選手が1つのチームとなって快進撃。日本中が「ジャパン」を応援した。

来日選手、ファンらとの交流も各地で行われた。会場やキャンプ地での触れ合いや「おもてなし」…。日本人がスポーツの素晴らしさを再確認した。予想を上回る日本代表の活躍、大会の盛り上がり。台風による試合中止などもあったが、大会は大成功だった。

「W杯が東京五輪に直結する」。当時の森喜朗組織委員会会長も、鈴木大地スポーツ庁長官も、口にしていた。W杯で培われたスポーツマインド、国民の一体感、ポジティブな思いとともに、東京大会へ。日本は「ワンチーム」で、まい進するはずだった。少なくとも新型コロナウイルスが出てくる前までは…。

2020年、すべてが変わった。ラグビーの感動が冷めないうちに、状況は悪化した。聖火リレースタート直前の3月には1年の延期が決定。当然のことではあるけれど、感染症対策がスポーツに優先した。

それでも、最初のころは日本は「ワンチーム」だったように思う。緊急事態宣言のもとでの自粛生活。マスクに手洗い、ステイホーム…。人々は耐えた。収束後の日常生活をゴールに、国民は1つになって未知の感染症と闘っていた。

ところが、新型コロナは手ごわかった。変異ウイルスで闘いは長引き、ゴールが見えなくなった。経済的にも精神的にも限界。人の流れは抑えられず、ステイホームも進まない。自粛を拒む飲食店からは深夜まで大声が響き、近隣住民は眉をひそめる。そして、緊急事態は延長を繰り返す。

「新型コロナは分断を招く」とされる。日本の「ワンチーム」もズタズタになった。東京大会への逆風も止まらない。ただ「国民のほとんどが反対」には首をかしげる。周囲には「見たい」という声も多いし、中には「中止は困る」という現実的な考えもある。言葉に出せないだけ。ここでも日本は分断されている。

選手も1つではない。プロスポーツとして五輪に頼らないテニスやゴルフの選手は「中止」を口にできるが、五輪への依存度が高いスポーツの選手は「中止になれば、生活できない。何が何でもやってほしい」と本音をもらす。「選手の意見」もバラバラなのだ。

ラグビー日本代表の「ワンチーム」は「ベスト8」という明確な目標に向けて多様性を認め合ったからこそ完成した。新型コロナと闘いながら目指す東京大会も、その形をはっきり見せてほしい。中途半端な「やります」ではダメ。「安全安心」ではなく、来日者数やパブリックビューイングなどを含めた観客の有無、開催方法など、早く発信すべき。仮に感染状況が変われば、修正すればいい。

ワクチン接種では「ワンチーム」になってきているように思う。出遅れはあったが、河野太郎行政改革担当相が目標を定めて明確な発信を続けるから、多くの国民がゴールを目指せる。東京五輪・パラリンピックも同じだ。反発もあるだろうが、はっきりとゴールが見えれば人は頑張れる。

ラグビーW杯決勝後、新横浜の居酒屋で幸せな気分にひたった。大会を報じ終えた満足感と、これが東京大会につながっていくという期待感があった。だからこそ、再び「ワンチーム」に。田中の言葉が少しでも政府に、都に、大会に、国民に届いてほしいと思う。