毎週日曜日掲載の「スポーツ×プログラミング教育」。今回も前回に引き続き、国際数学オリンピック金メダリストでジャズピアニスト・数学者の中島さち子氏です。スポーツとプログラミング教育を組み合わせることで、プレー向上や生きる力にもつながることが分かりました。【聞き手=豊本亘】

国際数学オリンピック金メダリストでジャズピアニスト・数学者の中島氏(右)とSTEAM Sports Laboratoryの山羽社長(撮影・豊本亘)
国際数学オリンピック金メダリストでジャズピアニスト・数学者の中島氏(右)とSTEAM Sports Laboratoryの山羽社長(撮影・豊本亘)

ボードゲームで俯瞰

プログラミング教育とスポーツは、親和性が高いと思います。以前に行ったワークショップ「タグラグビー×プログラミング」でのことです。

参加した児童たちは最初、運動が上手な子は楽しそうだけど、苦手な子は控えめで隠れるような感じでした。しかし、途中で数学やプログラミングを通じてタグラグビーをいろんな角度から見られるようになってくると、徐々に苦手な子も声が出てきて、いいポジション取りをするようになり、チームとして動くようになりました。STEAMは「唯一の解を与えるもの」では決してなく、むしろチーム力やコミュニケーション力、考え感じる力、自信などにつながるものだと思っています。

実際にプレーをしているだけだと、運動が得意な子はなぜうまくいってるか考えることなく、直感的に進むことが多いかと思います。逆に苦手な子は瞬時にいろいろなことを判断・行動できないため、プレー中は自分の周りしか見えていないことが多いように感じます。でも、実技から1度戻ってきてボードゲームやプログラミングで何が起こっていたのかを1つ上の視点から考えてみる。メタ思考といったりもしますが、俯瞰(ふかん)できるようになると、スペースなどがなぜ大事か、なぜこの時にパスをした方が良かったのか、などが説明できるようになります。ふに落ちるんだと思います。

感覚を言語化する

講師だった(元日本代表でラグビートップリーグヤマハ発動機FB)五郎丸歩さんは、「いくら言ってもパスをせず1人でトライまでしようとしてしまう児童に、どう伝えていいか分からなかったけれど、ボードゲームならばその背後にあるものを伝えられる!」と感動していました。(同じく講師で7人制ラグビー元日本代表選手の)石川安彦さんは「感覚でやっていたことが言語化された。面白い」と話していました。実技とボードゲームやプログラミングをいったりきたりしていると、ボールを持っている人だけではなく、それ以外の人の動きも大事ということが具体的に見えます。

ボードゲームは状況を俯瞰して見て、どうするかを考えるのに適しています。あのシーンは1人1人どう動くべきだったかなどの深い考察に向いています。一方、現状行っているプログラミングを用いた学びは、1人1人の瞬時の判断をシンプルに言語化しているので結果、チーム戦略(もっと前に進もうとか、パスを大事にしよう、など)の議論がしやすくなります。自ら考え、感じ、戦略を立てる際のヒントとなる「考え方」などを学ぶのです。

保護者もぜひ体験を

スポーツで、ただ体を動かすのではなく、頭や心を使う部分を「見える化」することで、プレーの向上だけでなく生きる力にもつながる。それが、株式会社STEAM Sports Laboratoryの考え方です。技術や数学、科学も使うけど、○○をやればできる! ではなく「考え方」を伝えます。すると、自然と「言われた通りに動く」ではなく、自ら考え、感じ、チームで1人1人が輝く、チーム全体も盛り上がるやり方を試行錯誤するようになっていきます。

プログラミング教育で、スポーツを通じた取り組みはほかの国にも実はあまりありません。このような新しい学びは、保護者の方もお子さんと一緒に体験してみてはいかがでしょうか? おすすめは親も(子どものサポートではなく)主役で受けてみること。意外と難しかったり、お子さんに負けまいと頑張ったりすることで、おもしろさや気づきがあります。(おわり)

◆中島さち子(なかじま・さちこ) 96年国際数学オリンピックで日本人女性初の金メダルを獲得。東大理学部数学科卒。ジャズピアニスト、数学者、STEAM教育者。現在は音楽・数学・教育の3軸で活動。株式会社STEAM Sports Laboratory取締役。

(2020年2月2日本紙掲載)