ついに、東京オリンピック(五輪)が1都3県にある34会場での無観客開催が8日、決まった。この異例中の異例の決断に、即座に反応した代表選手がいる。オーストラリアの男子テニス代表で、世界のトップ選手の1人、ニック・キリオス(26)だ。

キリオスは9日、自身のSNSを更新し、「無観客には違和感がある」として、東京五輪への欠場を表明した。キリオスは「国を代表するのは夢だった。2度チャンスはないかもしれない。ただ、誰もいない会場でプレーするのは気持ちが乗らない」と書き込んだ。

実は、これには裏がある。キリオスは現在、開催中のウィンブルドン3回戦で腹筋を痛め、途中棄権をしていた。全力でサーブが打てない状況で、五輪への出場も危ぶまれていた。この背景があっての欠場表明であることは間違いがないだろう。

ただ、無観客がキリオスの欠場を後押ししたことも事実だ。キリオスは会見で「満員の観客の前でプレーしたい。それが自分にとっての五輪だ」と話している。キリオスは、観客と一体になり、会場と自分を盛り上げ、集中していくタイプだ。無観客では、その信念が貫けないと判断したのだ。

無観客は史上初めてだ。加えて、観客の有無により、選手が出場か欠場を決めることも、現代スポーツの象徴だと言える。テニスなどのメジャーなプロスポーツでは、その競技はエンターテインメントであり、ファンや観客がいることで成立する。

世界王者で今年、男子史上初のゴールデンスラム(五輪と4大大会を年間で全制覇すること)に挑んでいるジョコビッチ(セルビア)も、5月の全仏前に「無観客なら出場するかどうか考える」と話していた。感染状況の影響もあるが、プロとしての観客の有無も影響があるのだろう。

水泳や柔道など、アマチュアが主体の競技の選手が、無観客だから欠場するとは絶対に言わないだろう。もちろん、五輪以外に活躍する場があるテニスやゴルフなどとは違い、4年に1回のすべてをかけた舞台だ。観客の有無などに左右されるわけにはいかない。

しかし、無観客の五輪。観戦はテレビやリモートというのが、まさに新しいイベントのスタイルだとすれば、観客の有無で選手が出欠を判断するというのも、新たなスポーツ、五輪の象徴なのかもしれない。【吉松忠弘】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)