米バスケットボールのNBAが19日(日本時間20日)に開幕する。リーグ創設75周年の節目。渡辺雄太が初の開幕ロースター入りしたラプターズは、個人的事情によりチーム合流が遅れた八村塁のウィザーズと20日(同21日)に開幕戦を戦う。渡辺は左ふくらはぎ痛、八村も調整遅れで、ともに欠場することが発表されたが、注目の長いシーズンがいよいよ幕を開ける。

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ラプターズの渡辺が、試合後に毎回のように連絡を取り合う同級生がいる。香川・尽誠学園高時代のチームメートであり、現在は宮崎・延岡学園高の男子バスケットボール部で若くして監督を務める楠元龍水さんだ。渡辺にとって初の開幕ロースター入りが確実となった直後の日本時間18日朝にも、海を越えた音声通話で2人は言葉を交わした。楠元さんは「ほっとした雰囲気もありつつ、『ここからがスタート、再び気持ちを切り替えていこう』という感じを受けました」と、親友との会話を振り返る。

高校3年間を同じ寮で生活した2人は、バスケ部でシューティングパートナーでもあった。全国的にも注目を集める存在だった渡辺だが、勘違いや、思い上がることなく熱心に練習に励み続けていたと楠元さんは証言する。

「性格的にも素直で、みんなから好かれていた。あいつのことを悪く言う人間はいなかった」。米ジョージ・ワシントン大に進んだ渡辺が帰国した際には、当時楠元さんが住んでいた京都の下宿先に立ち寄り、夜の体育館で一緒に汗を流した。

今では世界最高峰の舞台に立つ渡辺。そのプレー1つ1つに、楠元さんは目を凝らす。ドリブルやシュートの場面、あるいは確保できなかったもののリバウンドを取りにいこうとしたシーンなど、試合後にあらゆるプレーを動画編集。それを渡辺本人に送る。「ラプターズにも映像担当者がいるから不要なんでしょうけれどね」と笑うが、それらは渡辺本人が自らのプレーを振り返るうえで、貴重な素材となっているはずだ。

そうした渡辺のプレー映像を、楠元さんが指導する延岡学園高バスケ部の選手たちにも見せている。「基本に忠実なプレーを、非常に高いレベルで繰り出しているのが彼の特長。だからこそ、高校生でもまねできる部分が多いんです」。日本人NBAプレーヤーの一挙手一投足は、高校生たちにとってまさに生きた教科書となっている。

開幕ロースター入りを果たした渡辺は、20日に、長いシーズンをスタートさせる。そして楠元さんが率いる延岡学園高バスケ部も、23日からの全国高校選手権(ウインターカップ)宮崎県予選の決勝トーナメントに臨む。「SNSアプリで渡辺家と楠元家のトークルームがあるのですが、『雄太が残った。次は龍水の番だ』と激励されました」と楠元さん。2人の親友はこれからも、互いに高め合っていく。【奥岡幹浩】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

◆渡辺雄太(わたなべ・ゆうた)1994年(平6)10月13日生まれ、香川県三木町出身。香川・尽誠学園高時代には全国高校選抜優勝大会で11年から2年連続準優勝。米ジョージ・ワシントン大を卒業後、18年にグリズリーズとツーウエー契約を結び、18年10月にNBAデビュー。20-21年シーズンからラプターズに移り、21年4月に本契約を交わした。東京五輪では日本代表のダブル主将の1人としてチームをけん引。206センチ、93キロ。

◆楠元龍水(くすもと・りゅうすい)1994年(平6)10月15日、鹿児島市生まれ。香川・尽誠学園高では3年時、同級生の渡辺雄太とともに副将を務めてチームを支えた。京都教育大卒業後は教員となり、宮崎・尚学館中勤務を経て、18年夏より宮崎・延岡学園高バスケットボール部を指導。全国高校選手権(ウインターカップ)には現在3大会連続出場中。