桜舞う春、東大阪市の近畿大学は、大勢の新入生らで活気があった。

構内にある人工芝のグラウンドではサッカー部が練習をしている。必死な姿とともに、時折見せる笑顔。当たり前の日常が、当たり前ではなくなった時期を経験したからこそ、彼らは真剣に練習に取り組み、勝ちたいという意欲が伝わってきた。

10日に開幕する関西学生リーグ2部の前期で、近大は京都先端科学大と対戦する。

2年ぶりに挑むリーグ戦。1年7カ月の空白期間は、真摯(しんし)に自分たちと向き合う時間だった。

複数部員の大麻使用が発覚したのは20年秋のこと。サッカー部は無期限の活動停止。公式戦どころか、練習さえも許されない。

目標を失い、先の見えない中で、彼らはどう過ごしていたのだろうか。

この春、4年生になったMF寺田樹生(たつき)主将はこう振り返った。

「いつから部が再開されるのかも、分かりませんでした。最初の3カ月は、ボーッとしているだけ。どうしようか迷っていた自分がいたけど、サッカーがないと生活が充実しない。年が21年に変わった頃、近くの公園で練習をするようになりました。アプリを使って走り込みをして、ボールを蹴って。次第に何人かが集まるようになり、ひたすら走っていました」

不祥事に関わった部員は退学、停学などの処分を受けた。その学年で部に残ったのは関与していなかった4人だけ。彼らは4年間で1度も公式戦に出ることなく、この春に卒業した。

大学時代に試合をする場を失っても新たな目標を見つけ、うち2人がサッカーの道に進んでいる。

ガンバ大阪で活躍し、引退後はJ2京都(当時)などで監督を務めた実好礼忠氏(現大院大監督)を父に持つMF実好礼治はJFLのMIOびわこ滋賀へ。FW辻本竜は関西リーグのおこしやす京都に入団した。

20年10月に大麻使用が発覚し翌21年7月末まで10カ月間の活動停止。21年春にスポーツ推薦での入学が内定していた選手は、他大学へ移った。

ようやく活動再開してからも公式戦はない。

それでも、他の学年は1人も退部する生徒はいなかった。

コーチから昇格したOBの尾内伸行監督(40)は、選手とのコミュニケーションを重要視した。

「見通しがつかない中で、辞める子はいなかったんです。全員が残ってくれた。かなり大変でしたが、この子たちを何とかしてやらなアカンな、という思いでした。活動停止期間はこちらから指示は出せないので、彼らからの報告を待つしかない。チームがバラバラにならないように、ズーム(オンライン)などで話を聞くようにしていました」

地域の清掃活動や、コンプライアンス研修、近大付属高の練習サポート。自分自身と向き合う時間が長かったからこそ、今は日常が戻った喜びをかみしめる。

尾内監督は言う。

「自分たちの部から(不祥事が)出たことを理解して、新たな組織をつくっていく。自分を知る機会になったと思います。サッカーができるのは、当たり前ではない。リーグ戦の目標は1部復帰。諦めずに続けてきたこの子たちなら、やれると思っています」

3月21日には1年半ぶりの公式戦に臨んだ。

天皇杯大阪代表を決める第27回大阪選手権大学予選。昨季の2部優勝で1部復帰を決めた大産大に1-0で勝利した。

2年前は1部にいたリーグ戦は2部からの再出発になる。寺田主将は「2部で優勝して、1年で1部に復帰する」と闘志を燃やす。

サッカー部のスポーツ推薦はなくなった。この春には一般入試で入学した30人ほどが入部する予定だ。

グラウンドにはスローガンが掲げられている。

「俺たちは常に挑戦者」

2年ぶりに迎えるリーグ開幕。生まれ変わった姿を見せる第1歩になる。【益子浩一】

近大のグラウンドに掲げられているサッカー部のスローガン
近大のグラウンドに掲げられているサッカー部のスローガン
リーグ開幕に向け調整する近大のメンバー
リーグ開幕に向け調整する近大のメンバー