「今回、聖衣来は故障どうのより、勝負できる状態ではありませんでした。皆さんにご心配をおかけしていますが、聖衣来も私も前を向いています」。陸上女子長距離の不破聖衣来(拓大2年)を指導する拓大女子陸上競技部の五十嵐利治監督は、電話口で努めて明るい声で説明してくれた。

7日の日本選手権1万メートル(国立競技場)は、出場を見送った。欠場理由は股関節周りの右梨状筋故障。同種目での世界選手権(7月、米オレゴン州)の出場は絶望的となった。

不破の出場意思を尊重し、できる限りの準備を尽くした。信頼する治療院が近くにある福岡県で1カ月ほど合宿を行い、治療とトレーニングを並行して調整を進めた。1月の都道府県対抗駅伝後に発症した右アキレス腱(けん)周囲炎はほぼ完治していたというが「足の痛みはなくなったが、別の箇所に違和感が出てきた。思い描いたポイント練習は、完璧にはできませんでした」。

日本選手権1万メートルで3位以内に入ればつかめた、初めての世界選手権への切符。結果的には諦める形となったが、後悔はないという。引用したのが、男子100メートルで日本記録保持者の山縣亮太(セイコー)の言葉だった。昨年10月に右膝を出術した山縣は、小学生向けの陸上教室に参加した4月29日の織田記念(広島)で術後の経過を明かし「この大会に出るためにと逆算をせずに、足の回復を最優先に考えたい」と話した。五十嵐監督はこの言葉を報道を通じて見聞きし、腹の中にスッと落ちたという。「山縣選手も言っていましたが『逆算する』という考え方ではありません。この大会にというよりは、状態を良くすることだけを考えたい」。

悔しさは言葉の端々ににじむが、どこか納得感はある。不破も3月に19歳になったばかり。焦らず、長い目で競技人生を見据える。【陸上担当=佐藤礼征】

都道府県対抗女子駅伝で区間賞と優秀選手賞を獲得した不破聖衣来(22年1月16日撮影)
都道府県対抗女子駅伝で区間賞と優秀選手賞を獲得した不破聖衣来(22年1月16日撮影)