女子ショートプログラム(SP)が行われ、2季ぶりにGPシリーズに出場となった元世界女王の浅田真央(25=中京大)が首位発進を決めた。後半の3回転ルッツが踏み切り違反を取られるなどミスはあったが、女子では最高難度の構成に挑めたことに納得。71・73点で後続を引き離してトップに立った。昨季の1年間の休養をへて、新たな心境で臨む試合で笑顔が映えた。フリーは今日7日に行われる。

 浅田が受け答えに少し間を取った。そして、ほほ笑み交じりに「ハーフ、ハーフですね。できる時もできない時もある。このレベルで挑戦できたことに大きな意味があると思います」。

 問いかけは、踏み切り違反を取られたルッツについて。10年バンクーバー五輪後に一から跳び方を見直し、ようやくプログラムに組み込む手応えがあったジャンプ。この日も左足エッジの外で踏み切るところが内を使っていると違反を取られたが、悲壮感は全くない。14年ソチ五輪後に進退を聞かれた時の返答、「ハーフ、ハーフ」の切り返しをみせる余裕があった。

 SPは「すてきなあなた」。振り付けのニコル氏からは「男性を誘うように」と諭される演目。表情で体現しながら、ローズピンクの衣装で舞った。冒頭のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を成功させて会場を沸かせると、続けて連続3回転に。惜しくもループで回転不足を取られ、ルッツも違反となったが、演技後には両腕を振り下ろすガッツポーズ。女子では最高難度の構成をまとめ「イメージ通り。振り付けの先生からは『やってはいけない』と言われているんですけど、うれしくて」と照れた。

 休養前と試合に臨む気持ちは大きく違う。「対決も楽しみですが、それプラス、自分の目標とする演技をしたい」。他者を意識して気負うことはない。確かに試合中の行動も違う。前日にはマスク姿で1人会場近くのスーパーに繰り出した。10年前にデビューした思い出の場所の周囲を回り、感慨に浸った。「10年は長いようで早かったな」。集中時とそうでない時のメリハリがしっかりしている。だから余裕も生まれる。

 「自分が戻りたいと思ったことが、演技に良い方向にいっている」。だからこそ、練習中も他人に言い訳を求めない。「全体的に大きく見られる。気持ち的に柔らかくなった」と、助言などにも余裕を持って耳を傾ける心理面を手にした。

 5月に復帰を宣言した直後は、GPシリーズで世界のレベルと争うことは頭になかった。それが予想以上の完成度で進んできた。ただ、まだまだ先がある。「やりたい演技、目指すものは尽きないですね」。柔らかい顔つきで、さらりと言った。【阿部健吾】