元世界選手権代表の高谷大地(23=自衛隊)が、男子フリー65級で涙の初優勝を遂げた。

 ノーシードから勝ち上がった高谷は、決勝で第2シードの米沢圭(21=早大)と対戦。11-2と大勝し「やっと勝てた。結果を出せてよかった」と目を真っ赤に腫らしながら喜びを爆発させて言った。

 拓大1年の13年に全日本選抜を制し、19歳で世界選手権7位となった。リオ五輪のメダル獲得も期待されたが、その後は低迷。国内ですら勝てなくなった。今春、拓大を卒業すると「レスリングに専念するため」自衛隊入り。それでも、なかなか再浮上のきっかけはつかめなかった。

 減量苦から階級アップも狙ったが、今年8月のルール改正でフリーの変更が見送られた。悩んだ末に「世界で勝つために」(高谷)65キロ級での挑戦を決意。しかし、普段71キロ、体脂肪11%だった体に減量は厳しかった。体重を落とすと、力が入らなくなった。

 「大地は終わった」とも言われたが、周囲は素質を信じて見捨てなかった。兄惣亮(28)は「やめたい」というメールに「今やめても、後で後悔する」と励まし続けた。前日大会7連覇を決めた元世界2位の偉大な兄は「自分の優勝よりもうれしい」と、自分の優勝でも見せない涙をみせた。

 今夏に米留学から帰国した12年ロンドン五輪66キロ級金メダリストの米満達弘コーチ(31)の存在も大きかった。「僕は何もしてないですよ。普通のことを言っただけ」と話すが、金メダリストの言葉は高谷に力を与えた。拓大の西口茂樹部長(52)も毎週のように自衛隊の練習に顔を出し、言葉をかけた。

 半年間酒も飲まず、食事にも気をつけて節制した。毎朝6時起床の生活を続けた。すべてをレスリングに費やしたが「当たり前のこと。米満コーチも兄ちゃんも、強い人はみんなやっている」と高谷。世界レベルのストイックさを貫き、通常で68キロ、体脂肪率6%の体を作り上げた。

 19歳で世界を経験しながらも、伸び悩んだ23歳。本人は否定したが、兄惣亮は「甘いところも、あったんだと思う」と言った。実力者たちのサポートを受け、かつていた場所に戻ってきた高谷は「もう1度世界で戦って、東京五輪を目指したい」と話していた。