今大会唯一の初出場だった昌平(埼玉)の御代田誠監督(46)は、手動式のスコアボードへと目をやり、感慨深げに振り返った。

 「世の中でテレビを見ている人が『昌平、やるな!』って思ってくれていたら、うれしいですよね」

 差は61点。だが、その数字とは全く別の充実感が腹の中にあった。

 午前9時30分開始の第2グラウンド第1試合は、多くのファンが集まる注目カードとなった。グラウンドの外にまで三重にもなる観客の列ができていた。

 前半、2連覇を目指す王者を相手に、昌平フィフティーンの生き生きとした笑顔が映える。7分に先制トライとゴールを許したものの、次第に相手陣でのプレーが増えた。

 「テイク! テイク!」

 そのかけ声を合図に、地面に倒れた選手は必ず1人、次の攻撃のサポートに走った。屈強な相手が2人で防御してくるなら、こちらは4人程度の人数をかけ、それに対抗した。防御時は相手の攻撃を止めるや、素早く起き上がり、ほころびを埋めたラインで一斉に前へと出た。前半18分、その洗練された動きの繰り返しが1つの結果に結びつく。

 相手陣22メートルライン付近から、SO鳥居健悟(2年)が勢いよく飛び出した。相手キックを左手でチャージすると、浮き上がったボールが近くでの競り合いを経て、自分の前に転がった。それを大事に抱え込み、ゴール右へと飛び込む。5-7。キックも決まり、同点に追いついた。

 指揮官は、ほほ笑んだ。

 「思い通りでした。東福岡さんは初戦。浮き足だったところを狙いたかった。上出来すぎるぐらいです」

 21分に勝ち越しのトライとゴールを許したが、7-14の7点差で前半を折り返す。場内はざわついていた。三重の立ち見の列が、四重、五重に増えていた。

 走ることは、昌平の原点だった。長野・菅平高原での夏合宿。2週間で1人100キロを走り込み、出来の悪い試合後には山登りを4往復も課された。ロックの岡田大生主将(3年)は「『こんなことして勝てるんか』って正直に思った。やめようと何回も思いました」。それでも仲間が歯を食いしばって取り組む姿を見て、思いとどまった。

 11月18日、埼玉県予選決勝で常連校の深谷を21-17で破った。つらかった練習が結果に結びつくと、チームの一体感はより強固になった。

 東福岡戦前、仲間に「王者とはいえ、同じ高校生だぞ!」と語りかけた。それだけで15人が、決して怖がることなく、前に出てのタックルでプレッシャーをかけた。「なんか『やってやろう』っていう覚悟が出てきて。すごく楽しかったです」。張り詰めた真剣勝負の中に、笑顔があった。

 後半、王者には格の違いを見せつけられた。30分間で54失点。甘くなったタックルで後退させられる場面が増え、そこに生まれたスペースを的確に突かれた。岡田は素直に認めた。

 「前半はやりたいことをできた。でも、そこから向こうの修正が早かった。その速度がすごかったです」

 涙を流して引き揚げてくる選手へ、御代田監督は声をかけた。

 「来年はもっと走るぞ!」

 そして取材用テントの中で、冷静に手応えをかみしめた。

 「東福岡さんは、うちが外を嫌がると内を突いてきたり、素晴らしかった。そこに回されたら(トライを)取られてしまう、届かないところに運ばれた。でも、やってきたことが全国でも通用するということも分かりました」

 国学院栃木のコーチとして6度花園を見てきた指揮官が、新しい学校で、監督として大きな経験を得た。それは下級生も同じだ。60分間で得たかけがえのない収穫と課題を手に、再び走って、走って、走る毎日が始まる。【松本航】