20年東京オリンピック(五輪)のマラソン、競歩が東京から札幌に移転した問題で、日本陸連の瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダー(63)ら強化委員会のスタッフが怒りをぶちまけた。

5日、都内で会見。IOCの「アスリートファースト」の号令のもと、長年にわたって東京の暑さへの対策を積み上げてきたが、10カ月前に札幌へ急転直下。決定は変えられないと理解した上で、強い遺憾を示した。

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従来の会議室から当日に広いホールに変更された会見には約80人の報道陣が集まった。テレビカメラは1系列1台限定も12台。注目される中、強い言葉で、怒りを表現した。

瀬古リーダー 急に変えるのはアスリートファーストではない。我々も真剣にやってきた。IOCの前には瀬古利彦も無力だ。

麻場強化委員長 IOCの言うアスリートファーストは本当のアスリートファーストではない。

河野匡長距離マラソンマラソンディレクターは、マラソンの代表選考会MGCを主導的に考案した。それは“聖域”だった複数選考会を壊し、コースは五輪本番と発着点以外同じ。地の利を生かせる選考方法だったが、その意義も薄れた。

河野氏 合意なき決定をされ、我々の中では理解不能。プロセスがよく分からず、理由が明確でない。テニス、ビーチバレー、トライアスロンなど競技時間が長い競技はたくさんある中、なぜマラソンと競歩だけが移転しないといけないのか。決められたルールの中で、超人的な力を発揮するのが過去の五輪。この事が死ぬまで心から消え去ることはない。

女子の山下佐知子五輪強化コーチは91年8月の猛暑だった世界選手権東京大会で、マラソン銀メダルを獲得した。

山下氏 準備をするのがアスリート。アスリートをばかにすんなと思う。

“大人の対応”を捨てた感情的な言葉には、選手を思い、強化に力を注いできたプライドをにじませた。

これまで移転の議論の中で、日本陸連は沈黙を貫いてきた。ただ強化側は選手、指導者の現場の意見を「当然、(IOC)調整委員会に提出されるもの」(河野氏)とのつもりで集めていた。それは日本陸連の事務局を通じ、国際陸連の理事も兼ねる横川会長には伝えられたが、IOC調整委員会はおろか、公に出ることすらなかった。風間事務局長は「調整委員会に出すためとして受け取ってはいない」とし、河野氏は「無念だ」と話した。【上田悠太】