新潟工の2年連続初戦突破はならなかった。城東(徳島)に7-21で敗れた。トライは前半29分のSH豊崎陸(3年)の1本。相手の粘り強い守備と展開力の前に自慢のFWが封じられた。自校の練習グラウンドを土から天然芝にする費用を寄付してくれたOBの日本代表プロップ稲垣啓太(29、パナソニック)に花園での勝利で恩返しを誓っていたが、果たせなかった。

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ノーサイドの笛が響いた。その瞬間、新潟工フィフティーンはうなだれるようにグラウンドに視線を落とした。「うちの強みのFWで行くプランを立てたが、相手のプレッシャーがきつくなり、対応された」。CTB奥田勇志主将(3年)はため息まじりに言った。

勝ちたい試合だった。後輩のために稲垣が寄付してくれた300万円で、天然芝のグラウンドが9月に完成した。そこで練習した成果を花園で見せることがチームの合言葉だった。大会前に稲垣からのメッセージはなかったが、自分たちから白星を報告するつもりだった。奥田主将は「稲垣先輩のおかげで多くの方に注目してもらった。感謝の気持ちをプレーで出したけど…」と悔しさを押し殺した。

ワールドカップ(W杯)で見せた稲垣の武骨なプレーが新潟工の伝統。耐えながらスクラムを押し、ラック、モールで起点を作って愚直に前に進む。だが、それが通じなかった。試合開始4分に相手バックスに回されてトライを奪われると、19分にも2本目を許した。新潟工が初めて敵陣22メートルラインを越えたのは前半22分だった。前半終了間際に豊崎がモールから持ち込んでトライを決めたが、らしさを見せられたのはこの場面だけだった。

チーム状態は万全ではない。奥田主将は右足首骨折から復帰し初戦。フランカー金子蓮(2年)は右肩脱臼、控えのフランカー清水太陽(1年)は右手小指骨折から戻って間もなかった。23日に花園入りする前は金子、プロップ矢部隆真(3年)、FB大久保征(2年)がインフルエンザでダウン。大会直前まで戦力は整わなかった。

もっとも樋口猛監督(47)は「それは関係ない。力がなかった。相手の集中力が素晴らしかった」と潔く負けを受け止めた。稲垣への恩返しは来年に持ち越し。「稲垣先輩の母校という誇りがある」。新主将就任が決まっているNO8稲村心(2年)は言った。そして「課題を修正して来年は勝つ」。初戦敗退の悔しさを次に向かう力に変える。【斎藤慎一郎】

○…チーム唯一のトライを奪った豊崎は「あのプレーは狙い通り」と話した。敵陣22メートルライン内に入ってのモールから単独で離れると、相手守備をかわしてトライ。「味方が余っていたので2対1の状況を作れた」。流れをつかめない試合だったが「自分のできる精いっぱいは出した」。後輩には「自分たち以上に声を出して、プレーももっと上達してほしい」とエールを送った。