女子ショートプログラム(SP)首位発進の坂本花織(20=シスメックス)がGPシリーズ初優勝を飾った。フリーも1位の153・91点を記録し、国際スケート連盟(ISU)非公認ながら合計229・51点の自己ベスト。昨季は全日本選手権6位など苦しんだが、18年に全日本女王となったリンクでよみがえった。大技のトリプルアクセル(3回転半)を競技会で初めて着氷させた樋口新葉(19=明大)が2位に入った。

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心地よい充実感の上をいく、最高の景色が待っていた。「うぉ~!」。229・51点の数字を目にし、坂本が思わず叫んだ。2季目となる「マトリックス」。ジャンプ7つに全て加点がつき、表現面を示す10点満点の演技構成点は5項目中4項目で9点台。「去年クリーンに滑りきったことがなかった。ノーミスだったら、こんなに出るんだな」。これを目指していた。

1年前のある日、神戸のシンボル「ポートタワー」を見ながら、波の音を聞いた。「はぁ…。無理やな」。気付けば買い物客でにぎわう繁華街「三宮」を、無の境地で歩くこともあった。結果が出ない。昨季は4回転など高難度ジャンプを跳ぶ周囲が気になり、表彰台を逃し続けた。朝練習が終わり、気分転換で散歩に出かける。だが、一瞬忘れた後ろ向きな思いも、夜の練習が来れば元に戻った。

今年1月、転機があった。「かおちゃん、4回転やればいいのに」。24歳、川原星コーチの言葉だった。「気が向いたらやります」。すると兄貴分は「そう言わんとやってごらんよ」と背中を押してくれた。やってみれば、少しだけ手応えがあった。「これ跳べたら戦えるんちゃうん!?」。ベクトルが自分に向いた。

「去年は『坂本、終わったって思われてるんやろうな』と感じていました。自分も『どうにでもなれ』って投げやりで…。練習が嫌すぎて、先生の話すら耳に入ってこない。自分が何を考えて、どうしたいのかも全然分からなかったです」

今春は新型コロナウイルスの影響で1カ月半、氷に立てなかった。自らの競技人生を考えた。20歳。女子スケーターとして、折り返し地点を過ぎていることに気付いた。「あと数年しかない」。地道な陸上トレーニングも歯を食いしばり「自分」にこだわった。この日、感慨深げに言った。

「『今きついけど、試合の時に笑顔になろう』と思ってやっていました。それが今日こういう形で発揮できて、うれしい限りです」

コロナ禍で国際大会の中止が相次ぐ中、12月には全日本選手権が控える。坂本は、変わった。【松本航】