全日本柔道連盟(全柔連)の中里壮也専務理事は1日、福岡柔道事故裁判について和解する方針を明らかにした。

理事会後、オンライン取材に応じ、「まだ和解が成立したわけでなく、内容までは言えない」としたが、9日の和解期日に和解を成立させたい考えを示した。

この裁判は、柔道事故の対応巡り、福岡市の男性とその父親が全柔連にそれぞれ165万円の損害賠償を求めた。訴状によると、当時中学生だった男性は14年10月、福岡市にある道場の男性指導者から片羽絞めをかけられて失神した。男性はその後、迷走神経性失神、前頸部(けいぶ)擦過傷の診断を受けた。父親は福岡県柔道協会にこの件について相談したが、被害者と加害者の説明が食い違い「事実関係を両者で話し合ってから来い」などと言われた。父親は「最後の頼みの綱」として15年11月に全柔連の内部通報窓口(コンプライアンスホットライン)に相談したが、福岡県協会に調査を依頼。全柔連は被害者への聞き取りをせずに「指導者への説明は信用出来る」とした福岡県協会の調査に基づき、「問題ない」と判断した。この事故を巡る損害賠償訴訟に関して、18年6月に男性指導者が4万4000円を支払う判決が確定。福岡県協会は、指導者に厳重注意処分を科した。

昨年10月に東京地裁で開かれた訴訟には、中里専務が出廷。当時の対応に関して「正しい判断であり、体罰でもない」と主張していた。その一方で、原告の父親は息子の言葉を代弁し、「柔道を始めた1年目に指導者から(競技をする上で)『心技体』が大切と教わったが、全柔連は『心』の部分の配慮がなさすぎる。福岡県協会に調査を丸投げして何も分かってない」と怒りをあらわにし、両者の意見は対立していた。【峯岸佑樹】