〈競泳:日本選手権〉◇3~10日◇東京・東京アクアティックスセンター

男子400メートル個人メドレーで、20歳の井狩裕貴(イトマン近大)が今大会第1号の東京五輪切符を獲得した。自己ベスト4分11秒88で派遣標準記録4分15秒24をクリアして、代表内定の瀬戸大也(26)に続く2位。元五輪平泳ぎ代表で中京大教授の高橋繁浩氏(59)は16年リオデジャネイロ五輪金の萩野公介不在の中で飛び出した井狩の能力を高く評価した。

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萩野と瀬戸が引っ張ってきた日本の男子個人メドレーが、新しいステージに入った。決勝8人中6人が派遣標準記録を上回るタイムを持つ高いレベルの争い。本多や宮本ら若い選手が、すでに瀬戸が代表に内定した後の1枠をめぐるレースは、見応えがあった。

予選7位だった井狩は第1コース。プールの端で全体は見渡せないが、隣の第2コースを泳ぐ本多は意識したはず。最初のバタフライが得意な本多に先行されたが、次の背泳ぎを積極的に泳いで2位につけた。もともと後半に強く前半200メートルは2分3秒くらいの選手。ところが、この日は本多に引っ張られたのか2分0秒台で入った。最後は疲れて伸びなかったが、本来のフリーの力なら4分10秒は切れる。瀬戸に続いてメダルを狙える位置だ。

近年、個人メドレーは日本の得意種目になった。92年バルセロナで、後に俳優になった藤本隆宏が日本人として初めて五輪決勝に進出。その後も、数多く決勝進出者を出し、萩野と瀬戸が一気に世界トップまで上げた。今や、日本の得意種目。日本のスイミングクラブでは必ず4泳法を教えるし、地味で苦しい練習が必要なだけに日本人向きな種目といえるかもしれない。

大会の1年延期で、選手の顔触れは変わった。この1年で若い選手が力をつけたのだ。井狩も、女子の谷川も、昨年なら五輪に届かなかった可能性もある。もちろん、1年で世界の競泳地図も大きく変わる。だからこそ、日本が世界と戦うためにも井狩ら新たな選手の台頭が貴重になる。(84年ロサンゼルス、88年ソウル五輪平泳ぎ代表)