白血病から復帰した池江璃花子(20=ルネサンス)が、東京五輪代表に内定した。400メートルメドレーリレー派遣標準記録の57秒92を上回る57秒77の好タイムで3年ぶりの優勝。自ら24年パリ五輪を目指すと話していた中で、奇跡的な復活をはたした。元五輪代表で中京大教授の高橋繁浩氏が、その泳ぎの素晴らしさを分析した。

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ラスト10メートルで失速しなかったのが、池江のすごさだった。復帰後のレースや今大会の予選、準決勝を見ても終盤の落ち込みは明らかだった。あれだけの病気から復帰して筋力も落ちている、体力もない。それでも「持った」のは、水とけんかをしない「テクニック」があったから。それが、ここ一発の勝負で生きた。

もともと、力に頼らない効率的な泳ぎができる選手だ。「水に乗る」ことで、スピードが出る。体形や体の動きで抵抗なく「エコ」な泳ぎができる。そんな天性の才があったからこそ、筋力や体力がない中で最後まで失速せずに泳げた。

後半50メートルは準決勝の31・53秒に対して決勝は30・79秒。準決勝は最後まで2ストローク1ブレス(2かきに1回呼吸)だが、決勝は残り5かきは息継ぎなしだった。準決勝は予選を泳いだ後の疲れもあったのだろうが、決勝はコンディションもよかったはず。前日まで失速していたラスト10メートルをノーブレスで泳ぎ切るほど、消耗を最小限にして100メートルを泳ぎきった。

5年前、16年リオデジャネイロ五輪選考会決勝での優勝タイムは、57秒71だった。初の五輪出場を決めて号泣した15歳のタイムに戻ってきた。ちなみに、50メートルの折り返しは、この日と同じ26秒98だった。これから筋力が戻り、体重も増えてくれば、スタート時の蹴りの力も増して浮き上がりでのスピードも増す。前半のタイムも伸びるはずだ。

ただ、あれだけの病気から復帰した池江に多くを望むのは酷。本人も言うように、東京はパリへの経験を積むために出場することが第一と考えるべきだ。次、さらにその次まで、まだまだ成長する可能性はある。とにかく、今日の泳ぎは素晴らしかった。本当に「あっぱれ!」。感動的なレースを、心からたたえたい。(84年ロサンゼルス、88年ソウル五輪平泳ぎ代表)