「0-97」の屈辱的大敗は、1年2カ月後に「29-31」になった。

10日、大阪・花園ラグビー場で行われたラグビーのトップリーグ(TL)最終節。NTTドコモは同じ関西の神戸製鋼に立ち向かった。後半最後のプレーまで29-26とリード。だが、あと1歩で逆転トライを許した。一時、勝ち越しのPGを決めていたSOマーティ・バンクス(31)が言った。

「僕自身、去年神戸製鋼と試合をして、苦い思い出があった。今日は最後の最後まで勝てると思っていた。去年の結果を踏まえると涙が出そうなぐらい、本当にみんなが誇らしかった」

20年2月2日、神戸ユニバー記念競技場。新型コロナウイルスの影が、近づき始めていた時期だった。

昨季のTL第4節。NTTドコモは0-97で神戸製鋼に敗れた。

「早く終わってくれ…」 15トライを許し、ある選手はそう願うほどだった。

コロナ禍のため第6節で打ち切りとなり、迎えた今季。ヨハン・アッカーマン新ヘッドコーチ(HC、50)が就任した。取材でも、口癖のように繰り返した。

「昨季のことは忘れてほしい。過去のことは振り返らない。真新しいチームと思ってほしい」

母国南アフリカでは年間最優秀コーチ賞を3度受賞。20年10月下旬の合流当初は「練習と練習の合間に、なぜ歩く。歩いている選手も悪いが、見過ごす周りも残念だ」と語気を強めた。昨季は少なかったコンタクト練習が増えた。選手は「きつい…」と苦しみながらも、歯を食いしばった。

ニュージーランド代表SHのTJ・ペレナラ(29)や、南アフリカ代表WTBマカゾレ・マピンピ(30)ら新加入の世界的スターも自宅から練習場へ地下鉄で移動。南アフリカ出身で19年W杯日本代表のフランカー、ビンピー・ファンデルバルト(32)が日本語と英語を用いて意思疎通の懸け橋になった。目線は少しずつそろい、今季は開幕から3連勝。自信が加わった。

この1年で、どこが変わったのか-。

神戸製鋼戦後のオンライン記者会見。その質問に、バンクスは力強く答えた。

「それぞれが『信じる』というところ。ハードな練習をやり、自信がついてきた。『もっとやれる』と信じてやってきた。もう1つ大きな要因は、新しい人たちがチームに入ってきた。TJはほめると調子に乗るからほめたくないけれど、TJには経験がある。そして(HCの)ヨハンが、うまくまとめてくれている」

NZ代表経験のないバンクスに褒められ、隣で同国69キャップのペレナラが大爆笑していた。

ホワイトカンファレンス(白組)で4勝3敗。同組を3位で通過し、戦いの場はプレーオフトーナメント(17日開始)に移る。「トップ8」の目標達成まで、あと1勝。膨らむ期待をよそに、アッカーマンHCの口調は冷静なままだった。

「正直、先のことを予想するのが、あまり好きではありません。トーナメントなので、どのチームにもチャンスがある。それを踏まえて、自分たちにフォーカスするのが一番。しっかりとやることをやっていく。僕は結果にこだわらない。プロセスをやると、結果がついてくる」

トーナメント初戦は2週間後の25日。「あと2点」の悔しさも、NTTドコモを強くする。【松本航】