昨季出場ゼロのクボタSH谷口和洋(26)が、チーム初の4強に貢献した。

試合2日前のメンバー発表ではベンチ外。天理大の先輩でもあるSH井上大介(31)が体調不良(新型コロナウイルスPCR検査の結果は陰性)となり、今季初先発が巡ってきた。序盤から激しい攻防となった王者との戦いで、テンポよくボールを配球し「最初は緊張したけれど、メンバー、バックアップの人、スタッフがメンタルのフォローをしてくれた。気が楽になりました」とほほえんだ。

現在クボタには5人のSHが在籍。そのうち3人が天理大の出身だ。谷口の5学年上となる井上は日本代表2キャップを持ち、同大学が全国大学選手権で初の決勝進出(準優勝)を飾った11年度の主力。4学年下の藤原忍(22)は21年1月の同選手権初優勝に貢献し、この春、鳴り物入りで入団した。2人と知名度で勝負すれば、厳しい立場だ。

実際、谷口は天理大時代も「控え」が主戦場だった。同期は東芝から豊田自動織機に進んだSH藤原恵太(26)。藤原に続く「2番手」が定位置で、大学最後の試合となった全国大学選手権準決勝の帝京大戦(17年1月2日)も、後半29分からの出場にとどまった。

それでも必要不可欠な存在だった。天理大の小松節夫監督(58)は振り返る。

「いつも途中からの出場でしたが、がっかりすることがなかった。仕事をきっちりとする。悔しい思いをしながらも顔に出さず、淡々と準備し、必ず力を出す。スピードがあるので、途中からチームのテンポを上げてくれていました」

クボタ入団もスカウトされた訳ではなく、売り込んだ結果、その力が評価されたという。この日の試合後、フラン・ルディケ・ヘッドコーチ(53)は「サントリーとの練習試合でもパフォーマンスを出していた。セレクションで、しっかりと手を挙げていた」と先発抜てきの理由を明かした。

準決勝はサントリー戦(16日、大阪・花園ラグビー場)。体調さえ戻れば、先輩の井上が、先発に最も近い位置といえるだろう。

「大さん(井上)に対しても、今日の試合でプレッシャーをかけられた。大さんは(最近の)記事で『ライバルの存在は関係ない』って言っていましたが、これでちょっと焦るんじゃないかな」

谷口はそう言って、いたずらっぽく笑った。【松本航】