東京五輪で日本女子を銀メダルに導いたホーバス監督が、男子監督へとスライドした異例の人事。日本バスケットボール協会で強化トップを務める東野智弥技術委員長は、22日の会見でその背景について説明した上で、日本男子監督について「トム・ホーバスしかいないと思った」と明かした。

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東野技術委員長は、男女両チームの監督の人選について「それぞれ分けて考えている」と説明。そのうえで中長期的な戦略として、これまでも五輪周期で最適な指導者を選んできたことをまず強調した。

女子を五輪銀メダルに導いたホーバス氏から恩塚氏へのバトンタッチについては、選手の精神面が重視された。東野委員長によれば、これまでの五輪出場後の選手たちについて検証したところ、大舞台を戦い抜いた反動による「五輪ショック」があった。メンタル面でのエネルギーの欠落を埋め、高いモチベーションを保ち続けられるようにとの観点から、新たな指揮官を迎え入れる方針が定まった。

そしてパリ五輪での金メダル獲得を念頭に、新たな指揮官の人選に着手した。通常周期よりも期間が1年短いことから、まったくのゼロからチームを組み立てていては時間が足りない。そのうえでポイントの1つとなったのが継続性。リオデジャネイロ五輪、そして東京五輪と、日本が追求するバスケットボールのスタイルを理解し、積み上げてきた実績を持つ恩塚氏に「発展的な女子の強化を任せたい」(東野氏)との結論が導かれた。

女子チームを恩塚氏に託すことが決まったことを受け、男子チームの監督選びも本格的にスタート。選手に競争力やプロ意識を根付かせたラマス氏の功績を高く評価した上で、東野氏ら協会側は「次(のステージ)にいかなければならない」と判断。女子同様に中長期的戦略を重視した。

23年W杯は沖縄アリーナで1次リーグが開催される。同大会で結果を残した上で24年パリ五輪へ臨むことができる指揮官は誰か、多角的に検討を重ねたうえで東野氏は「トム・ホーバスしかいない」と断言。「日本のバスケを知り、日本の文化を知っている。世界に勝つため戦略設定も持っている。ストラテジーの天才」と評した。

東京五輪でクローズアップされた、選手たちの気持ちを高める激励を東野氏は「魔法の言葉」と表現。「通訳なしでダイレクトにコミュニケーションが取れる。言葉のマジシャンと呼ばれるが、ぜひそれを見せてもらいたい」と期待を寄せた。東京五輪でのスロベニア戦で相手の主力ドンチッチがベンチに下がったときや、アルゼンチン戦で点差を4点に縮めた場面を挙げ、「ああいうときにでダイレクトに指示ができる姿を思い描いている」と力を込めた。

東野氏は東京五輪で学んだこととして、八村塁(ウィザーズ)ら海外でプレーする選手の所属先のゼネラルマネジャー(GM)や監督とのコミュニケーションを深く取る必要性を口にした。国内リーグの会場にも代表監督が積極的に足を運ぶことが重要とし、「(ホーバス監督は)女子チームを率いたときにもしっかりやっていた。一緒になってレベルアップし、日本らしいバスケにつなげるための方法論を持っている」と力を込めた。

日本バスケットボール界で男子と女子それぞれの代表チームを率いた人物は、少なくとも近年には見当たらない。他競技には1954年にバレーボール全日本男子代表を率いた前田豊氏が、60年代に女子代表の指揮官を務めた例があるとは言え、やはり相当なレアケースといえる。

異例の人選について東野氏は、「アイデアが浮かんだ時期は五輪中だったかな。男子(の3試合)が終わった後」と振り返り、「女子のところで踏ん切りがついて、そこから動き出した」と明かした。