保育士と選手の「二刀流」で奮闘中! プレステージ・インターナショナル アランマーレの選手は日々、社内業務をしながら競技に打ち込んでいる。プレステージ・インターナショナル入社2年目の田中陽子(23)は、保育士として社内の保育園に勤務。仕事を終えるとバスケットボール選手に切り替わる。20年4月から秋田で生活するシューターの日常に迫った。【取材・構成=相沢孔志】
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子どもたちから愛されるエプロン姿の「ようこ先生」は、午後になると、仲間からコートネームの「ヨウ」と呼ばれる。田中は午前9時から社内の保育園で勤務し、会社内外で働く母親らの代わりに、2歳と3、4歳の2クラスにいる約18人の子どもを保育している。田中以外の選手は自動車関連などのオペレーター業務をし、休憩後に合流してからは練習場で技術力の向上に励んでいる。
田中は学生時代、全国指折りの強豪でしのぎを削った。出身地の三重・鈴鹿市から岐阜女に進み、3年時には全国選手権優勝に輝くなど、全国の舞台を何度も経験した。転機は大学進学だった。「何らかの免許は大学を卒業するときに取りたいと思っていた。自分に合うのは何かなと思ったときに、保育士だと思って決めました」。将来を見据え、全日本大学選手権で3度の準優勝を誇る大阪人間科学大に進学。自身の競技レベルも高めながら学業に励み、幼稚園教諭と保育士の免許を取得した。卒業後の20年4月からは資格を生かしつつ、秋田でプレーを始めた。
もちろん、業務の内容が他の選手と自分だけが違うことに不安もあった。「まず、たくさんの子どもがいる中で1人1人と関係を作るところが大変でした。そして、子どもの成長度合いも違うので、何かを教えるときに言葉をかみくだいて上手に伝えることが難しいなと感じています」。それでもくじけず、前を向いて考えた。「最初は目に入ったことをほめていました。『服がかわいいね』とか、そういうところからコミュニケーションを取りました」。日々対話を重ね、今では多くの子どもから「ようこ先生」と呼んでもらっている。
東北での生活が始まった直後、チームは21-22シーズンから東北勢初となるWリーグ参入が正式に決定した。社内でも創部当初からの目標が実現し、祝福ムードや注目度も高まった。そして、今年3月からは1カ月に1回、保育園内で簡単なバスケットボール教室を実施している。「先生や子どもからバスケットボールに興味を持ってもらえるようになって。そこから『頑張ってね』とか、たくさん声をかけてもらえるようになりました」と喜び、バスケットボールへのモチベーションに変えている。
今季初の公式戦となった「オータムカップ」は、全試合に先発出場。大会やリーグ戦に向け、磨き続けた3点シュートを成功させたが、内容と現状に満足はしていない。「Wリーグのチームと戦って決定力や体の当たりに差があった。開幕前までに自分が得意としているスリーポイントシュートの精度やチーム同士のコミュニケーションをもう1回確認しつつ、強度を上げていきたい」と意気込んだ。加えて「相手のプレッシャーでなかなか決められないところがあったので、波がないように、しっかり決めきることが自分の仕事」と、シューターとして期待される役割を自覚した。
10月下旬、自身が憧れ続けた日本最高峰の舞台が開幕する。
田中 チームのスローガンである「Challenge」と(目標の)「攻め続ける」は絶対に全試合やり通したい。仕事の面でも保育士のみなさんにすごくお世話になっているので、バスケットでも頑張っている姿を見せられるようにしたい。
同僚や子どもたちの後押しを受けながら、コートでも、太陽のように輝きを放ち続ける。
◆田中陽子(たなか・ようこ)1998年(平10)2月17日生まれ、三重・鈴鹿市出身。小学1年で競技を始める。岐阜女では3年時に全国高校選手権優勝。国体、全国高校総体準優勝。大阪人間科学大を経て、20年4月にアランマーレ入団。166センチ。ポジションはシューティングガード。コートネームは「ヨウ」。好物は、プリンとすし。