女子53キロ級で17歳の藤波朱理(三重・いなべ総合学園高)が、初出場で金メダルを獲得した。この日の決勝も含め、全4試合で無失点でのテクニカルフォール勝ちの完全優勝。日本勢の高校生の世界王者は5人目、史上2番目の年少記録だった。レスリング一家に育った24年パリオリンピック(五輪)の星が、圧倒の世界デビューを飾った。日本は東京五輪代表が出場していない。

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藤波がニッコリとほほ笑んだ。「Woman is very strong!」。決勝を終えてのインタビューエリア。「レスリングは男性的なスポーツだと思うか」と英語で聞かれると、右拳を握って返した。「女子も強い」。17歳は自ら、初の世界一決定戦の舞台で証明した。

前日は3試合を戦い、10点差以上をつけるテクニカルフォール勝ちを連発した。この日の決勝でも事もなげにタックルを決め続けた。予備動作の少ない動きから、相手のモルドバ選手が不用意に前に出した足をつかむ滑らかな動き。「楽しめました」。開始2分15秒で10-0として試合を終わらせると、両手を振って笑顔を振りまいた。

過去の高校生での優勝は4人。91年の山本美憂、99年の正田絢子、02年の伊調馨、17年の須崎優衣に続いた。五輪金メダルの先人に並び、「若いと言われますが、今までかけてきた思いや、レスリングをとことん考えてきた時間は劣ってない。自信を持って戦えたことが大きい」と誇った。「I feel amaging(素晴らしい気分)」「I’m so grateful(とても感謝してます)」。試合後に英語で応答する姿も堂々としていた。

いなべ総合学園高で監督を務める父俊一さんの指導のもと、成長を続けてきた。兄勇飛は17年世界選手権フリー70キロ級の銅メダリスト。大会前に世界選手権の話を聞き、「いろいろなエピソードにワクワクしました」と心待ちにしていた。

吉田沙保里らが君臨し続けてきた階級。「出場する者として絶対に勝たないといけない」と使命感もあった。東京五輪では向田真優が頂点に立った。「本当に強くて、小さい頃から憧れの選手なんですけど、絶対にパリに行くのは自分という強い気持ちを持って、戦う時が来たら勝ちたい」。パリ五輪まで3年。さらに強くなっていく。【阿部健吾】

◆藤波朱理(ふじなみ・あかり)2003年(平15)11月11日生まれ、三重県出身。4歳で競技を始める。昨年の全日本選手権、6月の全日本選抜選手権を初制覇。優勝で国内外での連勝記録を「83」に伸ばした。163センチ。