どことなく重い雰囲気が取材エリアを包み込む。「なんか暗い会見だったね。引退会見みたいな。しねえし!」。帰り際、察した羽生が笑顔を浮かべて発した。報道陣からは自然と笑みが出た。

天真らんまん。その言葉がよく似合う。取材の時はいつも自然体で振る舞った。19年9月、シーズン初戦のオータムクラシック。同年3月の世界選手権で2位になって以来の公の場だった。貴重な取材時間に報道陣からは、3年後の北京五輪への思い、今後の選手としてのモチベーションなどに関する質問が相次いだ。殺伐とした雰囲気さえあり、それらを察したであろう羽生からの言葉だった。

思ったことは素直に口にし、質問には何でも答えた。リンク以外での楽しみを聞くと「ゲームは楽しいですけど」と答えた。好きなゲームソフトは「今はファイアーエンブレムをやっています」。ゲーム機は「(任天堂)スイッチ」。プライベートの話を渋るアスリートもいる中、嫌な顔一つせずに即答してくれた。競技外の質問でも快く受け答えする姿は印象的だった。

ゆえに、さらっと言う衝撃的な発言もあった。オフ中に右足首の負傷理由を問われると「5回転サルコーの練習をしていて…」。いきなりの「5回転」発言に一瞬、時が止まった感覚を覚えている。何にでも答える一方、何を言うか予測できない面もあった。ただ、その発言力は羽生の魅力の1つだと感じた。(敬称略)【19年担当=佐々木隆史】