ショートプログラム(SP)首位の宇野昌磨(24=トヨタ自動車)が初優勝を飾った。フリーで自己ベストを更新する204・47点をマークし、ともに今季世界最高となる合計は304・46点の大台到達。過去2位が2度、3位が2度だった大舞台で、ついに頂点に立った。

練習は裏切らなかった。先月のNHK杯を制してから、氷に乗る時間の大半をささげてきたフリープログラム「G線上のアリア」。その冒頭から4回転のループ、サルコー、フリップと3本を成功。演技後半のトーループ2本も着氷し、フィニッシュを決めると寝転ぶように背中を氷に預け、ほほ笑んだ。

「(昨季の)世界選手権で優勝したから、というプレッシャーなどは感じなかったんですが、フリーで全選手の演技を見ていて、皆さん素晴らしかったので。緊張するのか、どんな気持ちで挑むのか、楽しみながら滑ることができました」

言葉通り、18歳の佐藤駿は大技4回転ルッツを含む全ジャンプに成功。17歳三浦は、最後に意地の4回転トーループ再挑戦で執念を見せた。米国の18歳マリニンは、世界で1人だけ跳べるクワッドアクセル(4回転半)を別次元の高い跳躍で決めるなど4回転4種5本を降りた。

そして、同じ中京大での練習で顔を合わせてきた後輩で、ジュニア時代の14年GPファイナルでワンツーフィニッシュを決めた山本草太が、自身の直前にほぼミスのない演技を決めてガッツポーズを繰り返した。

それでも、緊張しなかった。乱されなかった。積み重ねてきた反復練習が、揺るぎない立場に自身を押し上げていた。

17歳でGPファイナルに初出場してから7年。その間に18年平昌五輪(オリンピック)銀メダルや22年北京五輪銅メダル、世界選手権優勝などの実績を積み、置かれた境遇が変わっていた。

22歳山本、17歳三浦、18歳佐藤の年下3人と出場。9月に4回転半を世界初成功させ、10月のジャパンオープンで競演し、今月18歳になったばかりのマリニンも突き上げてきた。

しかし開幕前日、宇野はこう言っていた。

「決して、追われる立場だけではないと思っています。本当にマリニン選手のように、いろいろな技術が僕よりたけている選手もたくさんいる。ただ、僕も置いていかれないようにしたい。『まだ、置いていかれていないな』と思っています。彼らとともに最高の試合にできたらと思います」

2日前のSPは今季世界最高の99・99点を記録し、首位で出た。フリーは最終滑走。緊張感と向き合い、今ある力を出し切った先に初めての頂が待っていた。

「トリノに来るのは初めてです。ステファン(・ランビエル・コーチ=06年トリノ五輪の銀メダリスト)が『第2の故郷』だと」

同じイタリアで開かれる26年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪を目指すのか。メダリスト会見で問われると「4年後、自分がまだ何をしているか分からないですけど、またこの地でいい成績を残すことが、ステファンにもうれしいことなんじゃないかなと思うので。また来たいと思います」と穏やかに語った。忘れられない場所になった。

シーズン前半戦の世界一決定戦を初めて制し、休む間もなく全日本選手権(21~25日、大阪・東和薬品RACTABドーム)へ向かう。2連覇が懸かる来年3月の世界選手権(さいたまスーパーアリーナ)の代表最終選考会でもある。

「大きな大会で、いい成績も目指したいですけど、今大会、やってきたことは出せたんですが、足りないところがまだまだありましたので。満足いくプログラムになるまで、このフリー曲を磨いていきたいと思います」

来週17日に25歳の誕生日が控えるが、いまだ成長曲線を描く。世界選手権に続く頂点を守ってなお、宇野から向上心がほとばしっている。(トリノ=松本航)