来年のパリ五輪で、12年ロンドン五輪の銅以来のメダルを目指すバレーボール女子代表「火の鳥 NIPPON」。40人の登録メンバーから初選出選手にスポットを当てる連載の下編は、NECに所属する22歳の159センチセッター、中川つかさが代表への思いを語った。【取材・構成=勝部晃多】

   ◇   ◇   ◇   

その一報は、喜びよりも驚きが大きかった。国内競技人口24万人(日本バレーボール協会への21年度登録者数)に及ぶ女子バレー。中川はそのトップ、日本代表登録メンバー40人に初めて名を連ねた。「いつか日本代表に絡める選手になりたいとは思っていたけど…。正直、選ばれるとは全く思っていませんでした(笑い)」。

驚きはあれど、戸惑いはなかった。身長159センチ。今回のメンバーでは守備専門のリベロを含めても2番目に低い。背が高いほど有利ではあるが「結果を出したもん勝ちです」。そう言い切るメンタルが、上の舞台へと押し上げてきた。

競技を始めたのは小学3年。「確かに昔はひねくれた気持ちがあった。だけど、バレーボールに対する姿勢は身長に関係ない。負けたくないという気持ちが大きかった。『ちっさくても』っていうのが強くなったきっかけかな」。身長の高い選手を目にするたびに燃えた。高さがなければ、他で突き抜ければいい。ゲームメーク能力や精密なセットテクニックを磨き、金蘭会高では同じく代表に選出された西川有喜(JT)や宮部愛芽世(東海大)らと春高バレーを18、19年と連覇した。高校からVリーグを目指す選択肢もあったが「自分が行きたいと思って選んだ」東海大に進学。1年時からレギュラーを張り、主将を務めた4年時には春・秋リーグ、東日本、全日本インカレを制して4冠を達成した。

そして東海大在学中の今年1月に卒業を待たずに公式戦に出場できる内定選手としてNECへ加入。1季目の今季から優勝を経験した。フルセットにもつれた東レとのファイナル(4月22日)は、途中出場ながら全セットでコートに立った。「優勝という最高の景色を見ることが出来て幸せに思います。また来年も同じ景色が見られるよう精進します」。優勝直後の言葉には、固い決意がにじんだ。

理想は“世界最小最強セッター”と呼ばれた竹下佳江氏のような「チームを勝たせる選手」。今回の代表招集はまだ、真鍋監督の若手に経験を積ませたいという意向が強いのかもしれない。ここからは五輪予選に出場できる14人に入るための道のりが待つ。それでも「ただただバレーが好きだから、何よりも優先して考えてきた」という中川には、「どんな世界なんだろう」とワクワクしかない。

登録メンバー入りは、バレーを志すきっかけとなった母が誰よりも喜んでくれた。5歳年下の妹さつきさんは、姉の背中を追うように金蘭会高でバレーに取り組む。これまで関わった多くの人たちからも祝福が届き、「喜んでもらえて幸せですね」とかみしめた。自分のために無我夢中で取り組んだバレーが、誰かの夢になる。将来は日本を背負う選手に-。小さな体にたくさんの希望を乗せ、パリへの戦いに挑む。

◆中川つかさ(なかがわ・つかさ)2000年(平12)8月13日生まれ、大阪府出身。母のママさんバレーの練習について行ったことをきっかけに小学3年から競技を始める。金蘭会高では春高バレーを連覇。東海大4年時に4冠(関東1部リーグ春・秋、東日本選手権、全日本選手権)を達成し、個人でも最優秀選手賞を獲得。大学在学中の23年1月からNECの内定選手となり、同4月に正式加入。159センチのセッター。