来夏のパリ五輪予選として開催されるワールドカップ(W杯)バレー開幕まで、残り50日を切った。23日まで行われたネーションズリーグ(VNL)で銅メダルに輝いた男子日本代表に大きな期待が集まるが、フランス出身の指揮官、フィリップ・ブラン監督(63)とは一体どんな考え方の持ち主なのか。強化方針から自身の性格、そしてリラックス方法とは? 日本バレーボール協会の川合俊一会長(60)が直撃し、現役時代さながらのアタックでその素顔に迫った。【取材・構成=勝部晃多】
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川合 いきなりですが、僕たち実は、現役時代に日本とフランスの代表同士で対戦しているんですよね。覚えていますか?
ブラン ソウル五輪でも対戦(予選リーグでフランスが3-1で勝利)しましたが、日本での試合で、川合さんがスポットライトを浴びて黄色い声援を受けていたのはよく覚えてます。
川合 ソウルよりそっちね(笑い)。お互い今より20キロくらい細かったですね。でも、今の日本は本当に強くなった。ありがとうございます!
ブラン 17年のコーチ就任時から、世界のトップチームの1つになることが目標でした。最初はその位置が見えなくても「練習を重ねていけば、こう活躍できる」というイメージを示していくことが大事。今、その目標までもう少しのところまで来ている。あとは経験。1試合ずつ重ねて、上り詰めていきたいですね。
川合 技術面での成長も感じます。やっぱりディグ(サーブレシーブ以外のレシーブ)の良さが勝因だと思うけどどうですか?
ブラン 川合さんはバレーをよくご存じなので、おっしゃる通りです(笑い)。強みは守備なんですが、ディフェンスは点数が入るものでない。ここ数年はスパイクやブロックの質を高めてきました。非常に高い水準でサーブ力を維持してきたことも要因ですね。
川合 石川や高橋藍ら海外でプレーする選手の存在も大きい。
ブラン 海外でのプレーは非常に大きなものをもたらしてくれます。例えばVリーグにも強いサーブを打つトップの外国人選手がいますが、海外のクラブでは彼らが5人いるようなもの。そういった選手のサーブを常に経験することはレシーブだけじゃなく、自分のサーブの質を高める上でも非常に重要になってきます。そして身長の高い選手も多いので必然的にブロックも高い。その中で戦うことは、石川選手や高橋藍選手がまさにそうですが、特にアウトサイドヒッターは得るものが多いと思います。
川合 そういう土台があるから、自信を持ってプレーできるし、気迫も前面に出てくる。試合中は、監督もコートぎりぎりまで行って熱いですよね。自分はどんな性格だと思います?
ブラン 監督としては、それぞれの瞬間に適した性格でいたいと思ってます。
川合 なるほど~。日本にはホトトギスを使った戦国武将の織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の性格を表す句があるんだけど、監督はどれに当てはまります? 僕は家康の「鳴くまで待とう」タイプ。その人のタイミングもあるだろうし、待つしかない、と。
ブラン (説明をじっくり聞いて)う~ん(熟考)。私は非常に忍耐強いので選手の強みが発揮できないようなら「待つ」こともしたいです。ただ、パフォーマンスがずっと出せないようなら、新しい選手に入ってもらう決断を下すことも必要。そういった意味では「殺す」に当てはまると思います。時には、より良いパフォーマンスが出せるようにハッパをかける役割もあるので「鳴かせる」も。3つのキャラクターはそれぞれ必要ですね。もちろん「殺す」という言葉は好きではないですけどね。
川合 そうきましたか(笑い)。でも監督という立場なら、どの性格も確かに必要ですね。それぞれで共通して大事なのは、選手とコミュニケーションをしっかりとること。
ブラン 試合で使った選手にせよ、使わなかった選手にせよ、試合後に評価をして選手に伝えることが大切だと思っています。チームの中でどういう役割を求められているのかを理解してもらえるよう、日頃から対話を心がけています。
川合 話をしていると、本当に日本バレーのために情熱を傾けていただいているな、と実感します。一方でリラックスする時間があるのか心配になるんですが、大丈夫ですか?
ブラン 人間は強い意気込みが必要な時と、みんなで楽しむ時、両方あることでバランスがとれます。バレーと全く関係ない話をしたり、冗談を言い合ったり。笑顔でいる瞬間を選手やスタッフと分かち合うことがリラックスにつながっています。あとは食事もそう。フレンチはもちろん、イタリアンやピザ、ワインですね。合宿中や大会期間中は飲みませんが、オフは飲んだり食べたりしてリフレッシュします。
川合 日本食も食べますもんね?
ブラン 大好きですよ。今日も納豆ご飯を食べてきましたから(笑い)。
川合 9月はいよいよ五輪予選も開幕します。まだ見ぬ世界を見せてくれることを期待しています。
ブラン アリガトウゴザイマス!
<ブラン監督アラカルト>
◆生まれ 1960年5月20日生まれ。フランス・モンペリエ出身
◆家族構成 夫人と1男2孫娘
◆好きな食べ物 牛肉、魚
◆座右の銘 You only live once, enjoy it(一度きりの人生を楽しもう)
◆趣味 ゴルフ、料理
◆印象に残っている現役時代の試合 1986年世界選手権・フランス-ブラジル戦
◆印象に残っている日本代表の試合 21年東京五輪・日本-イラン戦
◆尊敬する人物 自他に対する勇気と正直さのある人
◆バレーボール以外で好きなスポーツ選手 タイガー・ウッズ、ラファエル・ナダル、マジック・ジョンソン、ミシェル・デジュワイオ(ヨットレーサー)
◆VNL VTR 予選ラウンド(R)は公式戦30年ぶりにブラジルを破るなど開幕から10連勝し、10勝2敗の2位で通過。ファイナルRでは準決勝で優勝した世界ランク1位のポーランドに敗れたが、3位決定戦で昨年の世界バレー覇者イタリアを破り銅メダルを獲得。前身のワールドリーグを含め大会史上初&1977年W杯以来の世界大会46年ぶりのメダルとなった。石川が得点王&ベストアタッカー、リベロ山本はベストディガーに輝いた。
◆フィリップ・ブラン 80年代にフランス代表のセッターやアウトサイドヒッターとして活躍し、86年世界選手権ではMVPを獲得。91年に現役引退。01~12年までフランス代表監督。02年に同国初となる世界選手権銅メダルを獲得。14~16年までポーランド代表のコーチを務めた後、17年から男子日本代表コーチに。21年10月に中垣内祐一氏の後を受けて同監督に就任。
◆川合俊一(かわい・しゅんいち)1963年(昭38)2月3日、新潟県糸魚川市生まれ。中1で競技を始め、日体大在学時から日本代表入り。「バレーボール界のプリンス」と呼ばれ、人気をけん引した。ロサンゼルス、ソウルと五輪に2大会連続出場。90年の現役引退後は、日本人初のプロビーチバレー選手として活躍。その後はタレントや解説者として競技の普及に努め、22年3月から日本バレーボール協会会長。
今回の対談は日本バレーボール協会公式YouTubeチャンネル「Channel JVA」でも配信される。川合会長がブラン監督を徹底解剖した深掘りトークは、8月上旬に公開予定だ。


