バレーボール男子日本代表の岸翔太郎広報が代表チームの舞台裏や秘話をお届けしてきた「龍神NIPPON広報リポート」。今回の第19回が最終回となります。

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8日まで行われたパリ五輪予選W杯バレーで、男子日本代表は北京五輪以来16年ぶりに自力での五輪切符を手にしました! 広報リポート最終回は、チーム広報の視点からこの五輪予選で強く印象に残ったトピックをお届けします。

一番印象に残っているのは、第2戦のエジプト戦です。大会前、チームにもどこか最後の3連戦までは順当に勝ち進むのではないかという空気が流れていました。しかし初戦のフィンランド戦は、フルセットで辛勝。ここで歯車が狂ってしまったのか、エジプト戦も初戦同様に3セット目から盛り返され、まさかの大逆転負け。チームはかなりのショックを受けていました。

特に責任感の強いセッター関田誠大選手のショックは相当なもので、試合後はコート上で涙を見せるほどでした。私が関田選手の涙を見るのは、この時が初めてでした。

そして、いつもその日の反省や世間話で盛り上がる食事会場もこの日は、ほとんど会話がありませんでした。夕食にもほとんど手をつけなかった関田選手。いつも一緒にいる高橋健太郎選手と同級生の山内晶大選手は、部屋に行って話をしたそうです。

そして翌日の午前中、選手、スタッフ全員が集まり緊急ミーティングを行いました。フィリップ・ブラン監督は「難しい局面に置かれている」と振り返り、「選手間で話をしてほしい」と対話を促しました。すぐにキャプテン石川祐希選手を中心に選手のみのミーティングを実施。チームカメラもシャットアウトされ、選手たちはおのおのの思いをぶつけ合いました。

このミーティング後には、今度は西田有志選手が関田選手と体を癒やすため近くのスパに。まさに「裸の付き合い」。ここでもいろいろな話ができたそうで、翌日のチュニジア戦の朝、関田選手の顔は少し晴れていたように感じられました。

「考えすぎてプレーしていた」と関田選手。続くチュニジア戦ではトスワークもさえ渡り、ストレートで完勝! 続くトルコ戦もストレートで勝利を収め、嫌な雰囲気を完全に断ち切ってみせました。

トルコ戦の直後、コート上で小野寺太志選手が関田選手に「ナイステキトー!」と声をかけました。もちろん、適当にプレーしていたという意味ではありません。考えすぎず、自分らしくプレーができたこと。それをたたえるこの言葉は、関田選手復活のきっかけとなったのではないかと思います。

敗戦を良薬にして、チームはさらに1つに。セルビア、スロベニアもストレートで撃破し、今シーズン最大の目標だったパリ五輪の切符を手にしました!

世界を追う立場から追われる立場になった日本にとって、エジプト戦が今大会のターニングポイントでした。この経験がさらに彼らを強くしたことは、間違いありません。次の目標であるパリ五輪でのメダル獲得に向け、まだまだ龍神NIPPONの戦いは続きます。これからも応援をよろしくお願いします!

◆岸翔太郎(きし・しょうたろう)1990年(平2)5月19日、埼玉県志木市生まれ。小学校からバスケットボールをはじめ、中学時には全国大会優勝。高校、大学と強豪校でバスケを続け、その後テレビの企画制作会社へ。現在は日本バレーボール協会広報部撮影班として、男子日本代表チームに帯同し、チームの日々の練習や宿舎での様子などを撮影中。

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