世界ランキング2位で第2シードの小田凱人(17=東海理化)が、4大大会3度目の頂点となる大会初制覇を果たした。決勝で、同1位で第1シードのアルフィー・ヒューエット(イギリス)と対戦。昨年大会の決勝で苦杯をなめた相手を、6-2、6-4のストレートで退けた。

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2018年。小田の車いすを手がける橋本エンジニアリングの橋本裕司社長(56)は、12歳の少年に夢を見た。同社は前年の17年に競技用車いすの製造を開始したばかり。選手サポートの拡大を模索していたところ、関係者から小田の存在を伝え聞いた。初めてプレー動画を見た時の衝動は、忘れもしない。

「ガッツもハングリー精神もすごくあって、力強いテニスをするな、って。この子に、うちの車いすに乗ってもらいたい。かけてみたいと思ったんです」

可能性は未知数でも、気迫あふれるプレーが橋本社長をつき動かした。当時の小田は他選手の車いすを借りて試合をしており、契約に至るまで、時間はかからなかった。

あれから6年。少年は、その見立てをはるかに上回るスピードで世界王者まで上り詰めた。その素顔を、橋本社長は「普段はすごくおとなしい」好青年と明かす。コート上での鬼気迫る表情とは対照的に「基本的には、そんなにガツガツしているタイプではないんですよね」。その中で、言葉1つ1つに聡明(そうめい)を感じるという。「行き当たりばったりではなく、『この試合に勝てば、こんなことを聞かれるだろうな』というところまでシミュレーションして挑んでいる。本当に賢いんです」。

その端緒が、小田が中学入学前から書いていた“計画書”。目にしたとき、大谷翔平が花巻東時代に作成した「目標達成シート」と重なった。中央の最終目標には「病気と闘う子供たちのヒーローになる」と記されていた。「そのために、何歳までにこれをする、何歳までに世界一になる。詳細なシナリオを描いて、それを1つ1つ実行してきた」とうなずいた。

橋本社長は今も変わらず、同じ夢を見る。「彼が望む車いすを提供し続ける。彼が世界で勝ち続け、子供たちのヒーローになるサポートを全力で続けます」。これからも、世界王者の戦いに寄り添い、ともに歩み続ける。【勝部晃多】

◆放送 全豪オープンテニスはWOWOWで連日生放送。WOWOWオンデマンドでは全コート、全試合ライブ配信。