<テニス:全豪オープン>◇8日目◇23日◇オーストラリア、メルボルン・ナショナルテニスセンター◇男子シングルス4回戦

 快挙はこうして生まれた!

 日本テニス界のエースで、世界ランク26位の錦織圭(22=フリー)が、4大大会初のベスト8進出を決めた。08年全豪準優勝者の同6位ジョーウィルフリード・ツォンガ(26=フランス)を、2-6、6-2、6-1、3-6、6-3で撃破。全豪では日本男子最多の4勝を挙げ、8強入りは1932年の佐藤次郎、布井良助以来80年ぶりで、4大大会では95年ウィンブルドンの松岡修造以来の快挙となった。試合後、日刊スポーツの独占インタビューに応じ、飛躍の秘密を語り尽くした。

 勝利の瞬間、緊張から解放されたように、錦織は真っ青な天を仰いだ。ラケットが、喜びとともにコート上にこぼれ落ちる。験を担ぎ、着続けた深紅のウエアは、死闘を物語るように汗でぐっしょりだった。攻守の切り替え、脱力など、錦織の目指していたテニスが実を結んだ瞬間だった。

 錦織

 とりあえずホッとしています。最後のセット、4-2の自分のサーブでブレークポイントがありましたし、あれを取られていたら、どっちに転がっていたか分からなかった。自分のサーブをキープすることだけを考えてやっていました。もちろんすごくうれしかった。

 ツォンガは188センチ、90キロ。錦織は身長で10センチ、体重で20キロも下回る。数年前ならパワーで押され、体力でも根負けしてただろう。それが、昨年、825本の年間最多サービスエースを記録したツォンガを、小さな体で圧倒した。気温35度の中、3時間半の激闘を堂々と勝ちきった。

 錦織

 意外と疲れていないんです。トレーニングの成果がこんなに早く出るとは。ツアーに慣れてきたというのもあるし、確実に、強くなっている証しだと思います。体力面で大丈夫、というのは本当に力強いですね。

 オフに体づくりに相当な時間をかけた。12月に米シカゴに飛び、陸上ハンマー投げの室伏広治を指導する理学療法士ロバート・オオハシ氏のもとで、10日間ラケットを握らず、体幹トレーニングを積んだ。今大会、炎天下の2度の5セット試合を含めた試合時間は12時間近く。さらに前日22日にはクルム伊達と混合ダブルスにも出場して快勝。24日も混合に出場予定。それでも体は問題がない。今回の勝利で4大大会の5セット試合は5戦全勝という無類の強さだ。

 錦織

 最後まで絶対にあきらめない気持ちがあると思うんですけど。それには体力が必要。トレーニングが効いているんでしょうね。今回は滑り出しを良くするというのを目標にしているんですけど、なかなかうまくいかないときもあるので、体力で助けられている感じです。

 一方で体力を使わずに戦う秘訣(ひけつ)も身につけた。ツォンガが全力でたたきつけるストロークを、簡単にかわして、逆にカウンターを決める場面が何度もあった。カギは「脱力」だ。転機があった。昨年11月の上海の大会1回戦。0-6、1-4で負けかけた時に、自然と力が抜けた。50~60%の力でストロークすることで、腕に余分な力が入らなくなった。肘から先をしならせることが可能となり、力を入れなくてもボールが飛び、ストロークも安定した。試合は逆転勝ち。テニスも開眼した。

 錦織

 この日も50~60%ぐらいの力で打っていましたね。さすがに攻められて、緊張も多少はあったけど、リラックスしてストロークはできました。この形が通用して、勝てているわけなので、テニスがしっかりしてきたなとは感じています。これが世界のトップ4相手に通じるかは分からないですけど。

 今季の開幕戦のブリスベーン国際では、まだ脱力テニスが完全ではなかった。2回戦で06年全豪準優勝のバグダティスにストレート負けした。しかし、大会直前の非公式戦に飛び入り参加し、ツォンガ、03年全米覇者のロディックに勝ち、リズムを完全に確立した。

 錦織

 ブリスベーンでは緊張からかすごく硬くなって、いい光が見えてこなかった。でも、非公式戦で少し緊張がほぐれて、試合に慣れた。今回、ベスト8まで行けるとは思ってなかったですけど、自信は少なからずはありました。

 戦後、松岡修造に続く日本人2人目の4大大会ベスト8の快挙。全豪では32年以来80年ぶり。しかし、32年は出場選手が32人。佐藤は3回勝ってベスト4だった。全豪で日本男子が4回勝つのは史上初。しかし、錦織は満足していない。

 錦織

 このトップ8に自分が残っているのは、不思議な感覚。でも、(19歳の)トミック(オーストラリア)が、昨年のウィンブルドンでベスト8に進んでいるので、それがなかったら、もっと喜んでいましたね。年下に先を越されたというのがあるんで、何とも言えない。意識してるんじゃないかな。でも、やっぱり、うれしいんですけど。【吉松忠弘】

 ◆錦織圭(にしこり・けい)1989年(平元)12月29日、島根県松江市生まれ。5歳でテニスを始め、13歳で米国にテニス留学。08年2月に日本男子史上2人目のツアー優勝という快挙を達成した。同年全米では日本男子71年ぶりの4回戦進出。11年10月17日に世界30位となり、日本男子過去最高位を19年ぶりに更新。11月には日本男子として初めて世界1位から勝ち星を挙げた。178センチ、70キロ。自己世界最高ランクは24位。