ラグビーW杯フランス大会で2大会連続8強に王手をかける日本代表(世界ランク12位)プロップ稲垣啓太(33)と、人気格闘漫画「刃牙」シリーズの花山薫が似ていると一部SNSで騒がれている。

笑わない男と、日本一の喧嘩(けんか)師。互いに無口で、顔の輪郭、切れ長の目が特徴的。作者はどう思っているのか? 運命の8日アルゼンチン戦(同9位)を前に、板垣恵介先生(66)を訪ねた。【取材・構成=栗田尚樹】

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始まりは1枚の写真だった。21年8月25日。稲垣は、自身の姿をインスタグラムにアップした。黒いスーツに身をまとい、鋭い眼光でカメラをにらみつける稲垣。SNSがざわついた。「全てが花山薫」。花山は15歳にしてヤクザの組長に君臨。日本一のけんか師の肩書も付く。19歳で身長191センチ、体重166キロ。規格外過ぎる男に対し、稲垣は186センチ、116キロ。サイズでは負けるが、迫力は引けを取らない。作者の板垣先生はどう思うか? 「俺は(似ている)意識はない。花山を似せてもない」と笑った。

むしろ、既に先生の漫画に登場していた。相撲をテーマに描いた「バキ道」。物語の冒頭で登場する相撲の開祖と言われる當麻蹶速(たいまのけはや)こそ、稲垣だった。先生は、ラグビー選手が特集された雑誌を見て着想を得た。「あ、この顔をいただきたいなと思って。縄文人がこの顔だって、言っても信じるよ。顔のつくり、骨格、全体の頑丈さ、見ただけで理解させるものがある」とドンピシャだった。

あふれ出る強さにほれる。面識はないが、写真から感じるものがある。「彼のフィジカルだけで、並の格闘家はなかなか勝てないだろうね。あの人には第2の人生ではなく第1の人生として、総合格闘技やってほしかったな。15歳くらいからやってさ。(UFCとか)どこの団体でもやれると思う」と目を輝かせた。「ビンタで倒せるだろうな。それにあの首見ると、ダメージ効かせるの本当大変だと思うよ」。真剣だった。

稲垣VS花山を見たくなる。幼稚園の年長で体重40キロ、中華料理店では“前菜”にラーメンとラーメンを注文するなど伝説を残してきた稲垣。500円玉をひねりつぶし、素手でアメ車のタイヤを引きちぎる花山。先生は「花山を簡単に負けさせる訳にいかないよ。うちの看板スターだからね。1番人気競っているキャラクターだから…」と苦笑いを浮かべた。

笑わない男で看板を上げてきた。先生は「稲垣選手は本当に笑わないもんな(笑い)。でも、本人は否定していたけど、結婚発表した時の写真は笑っているよ。花山はスマイルまで。声を出して笑ったこと、爆笑なんかとんでもない。逆に花山でさえ笑うって面白い出来事があれば考えてみたいけどね」。笑わない男対決も、花山に軍配が上がった。

サクラのジャージーに袖を通す當麻蹶速は、運命のアルゼンチン戦を迎える。先生は「最高がベスト8? よくぞ、そこまで来たね。あんな欧米の頭蓋骨厚そうな選手とやり合ってさ。ベスト4いったらすごいよね。楽しみだね」とエールを送った。「向こうが良ければの話だけど、稲垣選手と会ってみたいね。飯食ってみたい。立った時の印象を体験したいね。漫画で登場するキャラクターは必ず、全身を見せる。その時に受ける立体感を見てみたい」。稲垣はフランスで気高い傷を増やし、日本へ帰還する。

◆「刃牙」シリーズ 自衛隊出身の板垣恵介が描く人気格闘漫画。1991年(平3)に週刊少年チャンピオンで「グラップラー刃牙」を連載開始し、その後に「バキ」「範馬刃牙」「刃牙道」「バキ道」などを展開。最新作として、シリーズ第6部の「刃牙らへん」が、8月からスタート。累計発行部数は21年の時点で8500万部を突破している。アニメ化もされ、Netflixでも配信されるなど、多くのファンに支持されている。