ブルガリア出身の元大関琴欧洲(31=佐渡ケ嶽)が春場所12日目の20日、現役を引退した。202センチの長身と端正な顔立ちで人気を博したが、多くのけがに悩まされ、10日目の横綱白鵬戦後に決断。この日、日本相撲協会に引退届を提出した。今年1月に日本国籍を取得。年寄名跡は取得していないが、大関経験者は引退後3年間はしこ名で協会に残れるため、今後は部屋付きの「琴欧洲親方」として後進の指導にあたる。断髪式などの日程は未定。

 涙とともに、言葉を詰まらせた。大きな体を、小さく丸めて。「体がボロボロになって、思うように相撲を取ることができませんでした。精神的にも体力的にも…限界がきました」。「角界のベッカム」などと称され、一時代を築いた琴欧洲の引退表明だった。

 両膝や肘に爆弾を抱え、左肩は脱臼の痛み。それでも春場所前は、引退など考えていなかった。だが、思うように動けない現実。気力は瞬く間に失われた。

 8連敗で迎えた10日目の白鵬戦の朝。師匠の佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)に呼ばれた時、涙が自然とこぼれた。思いを悟った師匠に「入門したときの気持ちを忘れずに取ってこい!」と送り出された。だが、力は出ず、横綱の目も見られなかった。「終わりがきたと感じた」。その夜「気力がないです。悔いもないです」と師匠に伝えた。

 規格外だった。202センチの長身。握力は100キロを超え、片手でリンゴをつぶせた。ワインも、コルクを人さし指で押せば1秒で開いた。初土俵からの大関昇進は年6場所制以降、最速19場所で駆け上がった。

 何度もけがに泣いたが、その都度「初心者に戻った」。新弟子のように朝早く起きて稽古。相撲だけに集中した。自らのけがの症状は、ほかの力士の前で決して話さなかった。勝負師だった。だから47場所も大関を務められた。そして気力が途切れたとき、勝負の世界にはもう戻れなかった。

 日本国籍を取得したのは、恩返しのため。「日本に来て、相撲取りになって本当に良かった。相撲は自分の人生です。今までも…これからも」。【今村健人】

 ◆琴欧洲勝紀(ことおうしゅう・かつのり)本名・安藤カロヤン。1983年2月19日、ブルガリア・ベリコタロノボ市生まれ。レスリングで活躍し、18歳で相撲を始める。02年8月に来日。06年九州場所で「琴欧州」から「琴欧洲」へ改名。かど番を7度経験し、13年九州場所で大関を陥落。大関在位中の633回出場は史上4位、378勝は4位タイ。通算537勝337敗63休。家族は麻子夫人と1男。202センチ、155キロ。得意は右四つ、寄り。血液型O。

 ◆年寄資格審査委員会

 日本相撲協会の公益法人化に伴い年寄襲名の承認方法が変更。これまでは力士の引退に際し、理事会が開かれ承認を得ていたが、今回は新設された年寄資格審査委員会で過半数の承認を経て、理事会で最終承認を得る初の事象となった。