どうしても気になる選手がいる。阪神藤浪晋太郎投手(23)である。精神的な不安が招いた想定外の分厚い壁。まさかのファーム落ちをして早2カ月以上が経過した。このコーナーで一度は取りあげたものの、いまだ2軍暮らし。その後ミニキャンプを張って試合から遠ざかってみた。手をかえ、品をかえて復活を目指すも、メンタル面が絡んだ病は厄介だ。道程は厳しい。8月4日の中日戦、鳴尾浜球場のマウンドには藤浪がいた。果たして結果は-。

 一筋の光明が差し込んだ。掛布監督が、久保ピッチングコーチが口をそろえて、ピッチングの中身でなく、あるひとつの場面に明るい材料を見いだしていた。同じ目線で見ている。当然かもしれないが、取材をしている中で両首脳から“同じ”こんな言葉を聞くとは思いもよらなかった。それは「野球少年のような姿」だった。悩んで、悩んで、悩み続けている今日この頃。藤浪の気持ちは、満面の笑みを浮かべるとか、おどけてはしゃいだりする心境とはほど遠かった。

 同監督「あれですよね。あの野球少年のように野球に集中する姿。初の打席に立つ前、1球目から思い切ってバットを振ってこい。と言って送り出したですよ。その通りに思い切って打ち、ファウルにはなりましたがホームラン性の打球が飛んだ。それと、ヒットを打ってオーバーラン。一塁へ帰塁するとき、ヘッドスライディングをしてユニホーム泥だらけにしていた。ベンチに帰ってきたときの笑顔がよかったね」

 藤浪が2軍落ちしてから、メンタル面を重点に指導してきた。少しずつではあるが実りつつあるようだ。

 同ピッチングコーチが見た藤浪は「ストレートは全球といっていいぐらい150キロ台の球速は出ていたし、ボールがたたける(腕が振れる)ようになってきたということです。だいぶ良くなりましたね。ファームにきてからですか…。そうですねえ。技術面とメンタルな面と五分五分ぐらいでアドバイスしてきましたかね。ミニキャンプをして、しばらくは登板間隔を空けたりもしましたが、現在は逆にマウンドの感覚を忘れないうちに登板しています。それより、今回の収穫は藤浪が野球少年みたいに、野球に集中してプレーできたことが一番でしたね」。記録に目を通してみる。確かにミニキャンプ中3週間強マウンドに上がっていない。明けてからは7月25日、27日、29日、そして今回の8月4日と登板間隔は短い。いろいろな手は打っているが確固たる結論はまだ出ていない。

 話題の野球少年-。第1打席の初球をフルスイングした。打球はレフト方向へホームラン性の大ファウル。スタンドからは期せずして「ウォー」と驚きの大歓声が沸き上がった。粘った。この打席カウント3-2まで粘り、外角の球に食らいついて、かろうじてバットに当てる右前のポテンヒットを放った。全力疾走する野球少年。2塁をもうかがいだしたが、無理と判断。慌てて帰塁するとき勢いよく頭から滑り込んだ。間一髪セーフ。塁上で立ち上がるとユニホームは泥だらけまたも客席から大拍手。大歓声が沸き起こった。このヒットが逆転のきっかけになった。キャンベルの適時打で生還する。満面の笑みを浮かべてベンチへ。野球が楽しくなれば復活は間違いないと思うが-。

 5回、被安打5。奪三振7。与四球1。失点2。自責点1。今回のピッチング内容である。見ていて大崩れする気配はなかった。「いい感じで投げられました。配球も緩急やボール球を使ってみました。四球もひとつありましたが勝負した上でのもので、内容はあったと思います」と試合を振り返っていたが、やっと明るいきざしが見えてきた。ミニキャンプが功を奏したか。「キャンプと言えるような大それたことはしていませんが、これまで1軍でやってきたことを含め、福原コーチと相談しながら細かい技術的なことを重点にやってきました。思い切って投げられるようになりましたし、あとは自信を持って投げることです」。最速157キロが出た。自信につながる球速だ

 気になるのは5イニング92球の投球数。制球に問題あり。病は“イップス”重症ではあるが今回は話を聞いていた最後の笑顔で語った「メンタルの方も大丈夫です」を信じたい。頑張れ“野球少年”

【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)