最高素材の米国選手が、日本流の指導を受けて開花した-。昨年メジャーのナ・リーグで首位打者と盗塁王を獲得し、守備でもゴールドグラブ賞に輝いたマーリンズのディー・ゴードン内野手(27=写真)。ルーキーリーグ時代の彼を指導したのが、横浜(現DeNA)の元監督で、楽天では編成本部長も務めた山下大輔氏(64)だった。フロリダのキャンプ地を訪れ、2人は6年ぶりの再会を果たした。

(2016年4月13日付紙面から)

山下大輔氏(左)とディー・ゴードンは近況を語り合う
山下大輔氏(左)とディー・ゴードンは近況を語り合う

 6年ぶりに再会したゴードンと当時の思い出話に花を咲かせた。私がドジャースのマイナーコーチを務めていたのは09年、10年。初めて会った時、ゴードンはまだ20歳だった。

 彼がこんなことを言ってくれた。「デューク(米国での私の愛称)から言われたキーワードは『スローダウン』だったね。そんなことを言うコーチはいなかったから、最初は何を言いたいのか理解できなかったよ」。私との練習を記憶してくれているようだ。何ともうれしい言葉だった。

 まだ彼がダイヤモンドの原石だった09年、2人で早出の個人練習を始めた。いわゆる「間合い」を教えたいと思ったのだが、ピッタリくる英語がなかった。すべての打球を全速力で捕りにいくのではなく、送球しやすいタイミングで足を運ぶ。そんなコツを教えるため、「スローダウン」という言葉を使った。体の動きも精神状態も、決して慌てることなく打球に対するという意味だった。

 ノックでも難しい打球ではなく、確実に捕れる簡単なゴロを打った。グラブでボールを吸い込む感覚をつかめば、捕球の確率が上がる。打球ラインを読み、タイミングを合わせる。単純な練習を繰り返した。

 最初はスポーツ専門チャンネルESPNの好プレー集に出てくるような、派手なプレーが好きで、気が乗らないと簡単なミスを繰り返す選手だった。激怒したマイナー監督に強制送還させられたこともあった。私は「格好よく見えるプレーはいらないよ」「守備は確率だよ」と繰り返した。そんな言葉に理解を示してくれるようになった。

 だから彼の堅実なプレーが、私にとって何よりもうれしい。簡単な打球をとても丁寧に処理していた。

 すっかり大人になったゴードンは、私にリップサービスをしてくれた。


 ゴードン ヤマシタさんはボクのベストティーチャー。日本で8年連続でゴールドグラブ賞(ゴールデングラブ賞)をとったなんて、すごいことだよ。ボクもヤマシタさんのようになりたいと思ったんだ。人間的にも素晴らしく、たくさんのことを学んだ。ルーティンの大切さも教えてもらった。イチローのルーティンもすごいだろ? 彼もまたボクのベストティーチャーなんだ。


 ゴードンの成功は、当然ながら本人の才能と努力によるものである。私の指導が…などと言うつもりはない。ただ、彼の中に少しばかり日本流のテイストが入っている。米国が誇る最高素材の選手に、日本流の基本がミックスされた-だからこそゴードンのようなスーパースターに育った。それぐらい、ひそかに思っていても許されるだろうか。もちろん現在チームメートのイチローに学んでいる部分も含めて、である。

 今年もまた、ディー・ゴードンの活躍が楽しみである。(おわり)


 ◆ディー・ゴードン 1988年4月22日、米フロリダ州生まれ。08年ドラフト4巡目(全体127位)でドジャース入団、11年初昇格。俊足の内野手で14年盗塁王。マーリンズに移籍した15年は首位打者、最多安打、2年連続の盗塁王、ゴールドグラブ賞。180センチ、77キロ。右投げ左打ち。