第88回選抜高校野球大会(3月20日開幕、甲子園)の選考委員会が29日、大阪市内で開かれ、21世紀枠での釜石(岩手)など3校を含めた32校を選出した。11年東日本大震災の被災地にある釜石は、釜石南時代の96年以来、20年ぶり2度目の出場。組み合わせ抽選会は3月11日に行われる。

 東日本大震災の被災地・釜石市に、ひと足早い春が訪れた。校舎の前でセンバツ出場を知らされた釜石の選手たちは歓喜した。出場決定は校内にも放送された。釜石南時代の96年以来20年ぶり2度目のセンバツは、岩手から震災後初の21世紀枠選出。昨年4月からチームを率いる佐々木偉彦(たけひこ)監督(31)は「子どもたちに、おめでとうと言いたい。頑張ってくれた」と感謝した。

 3月で震災から節目の5年になる。市内の実家を津波に流された佐々木監督は「復興は進んでいるようで進んでいない。建物も建っていない。もう1度被災地を見てほしい」と訴えた。仮設住宅から通学する菊池智哉主将(2年)は「全力プレーを見せて、釜石の歴史をつくることが元気を与えることになると思う」と言葉に力を込めた。

 佐々木監督が水沢農から釜石に赴任した昨年4月、新任あいさつで「甲子園に連れて行きます」と、全校生徒の前で宣言した。「目標は大きく言っておかないと」と振り返るが、エース右腕・岩間大(2年)は「現実味がない」。主砲の菊池勇貴(2年)は「正直、何を言っているんだろう」と、選手の誰もが信じなかった。

 それでも現チーム結成から、佐々木監督は「センバツ」の目標を何度も口にした。約2時間の限られた時間の練習を「試合」と想定し、1つのプレーへの集中力を高めた。1試合勝ち上がるごとに力をつけ、選手も本気になった。岩間は「それまで甲子園なんて考えていなかった。目指すものが変わった」と明かした。

 初出場の20年前は1回戦で敗れた。「自分たちは出ることじゃなくて、勝つこと」と岩間は言った。マネジャー1人を含む部員24人のごく普通の公立校が、現実にした甲子園切符。被災地への思いも込めて、夢の舞台に立つ。【久野朗】

 ◆21世紀枠 01年導入。推薦校は原則、秋季都道府県大会のベスト16以上(参加129校以上はベスト32以上)から選出。練習環境のハンディ克服、地域への貢献など野球の実力以外の要素も選考条件に加える。07年まで2校、08年から3校を選出(記念大会の13年は4校)。東、西日本から1校ずつ、残り1校は地域を限定せずに選ぶ。