夏の甲子園大会が終わった。強力打線を武器として日本一に輝いた日大三(西東京)、青森勢として42年ぶりの決勝進出を果たした光星学院を中心に、数多くの名勝負が生まれた。地方大会から多くの球児を取材した担当記者が、強く印象に残った球児を挙げた。◆専大北上・中村晃広外野手(岩手・3年)
この夏、数え切れないほど震災の話を球児に聞いた。「その質問、うぜえ」(球児)「親を亡くした話は聞かないで」(監督)。当然、嫌がられる。その中で、中村ほど強い目で記者を見て、家族の死を語った男はいない。
沿岸の大槌町にある実家は津波で流失した。5月。行方不明だった父秀知さん(享年59)の遺体が見つかった。火葬で帰郷する前、仲間に言った。「俺は今日から、家族を亡くしたことを忘れる。みんなも忘れて野球に集中してほしい」。
後日、私はこの言葉が夢に出て泣いた。真意は「本当は現実なんて口にしたくない。でも、仲間に心配をかけるのが嫌なので」。自分には言える自信がない。
「父の遺体は海の底で見つかりました」。口にしたくないだろう状況も、しっかり記者の目を見て話す。強い男だ。震災後、家族が行方不明なのに「主将なので」と1度も寮を離れなかった。父の火葬でも泣かなかった。仲間を黙々と、強烈に引っ張る姿と重なる。
卒業後は大学で野球を続ける。葬儀で「おやじ、もう頑張らなくていい。これから俺が頑張る」と約束したという。言葉通りの活躍に期待したい。【木下淳】

