DeNAのルーキー倉本寿彦内野手(24)が、巨人の無敗ルーキー高木勇人投手(25)を止めた。同点の8回1死満塁、大根切りのような必死のフルスイングで決勝打を放った。8戦ぶりに先発出場し、値千金の大仕事。チームは首位攻防3連戦を2勝1敗で勝ち越し、10年ぶりの5カード連続の勝ち越しで、首位をキープ。南場智子オーナー(53)の故郷、新潟で「母の日・勝利」を飾った。

 夕日が差し込むハードオフ新潟で、倉本がフルスイングした。同点の8回1死満塁。前打者の代打後藤は1死二、三塁から敬遠で歩かされた。次打者席からマウンドをにらみつける。「うれしいというか、燃えた。絶対に打つと決めて打席に入った」。腹は決まっていた。初球の内角スライダーを見極め、見送る。1ボールからの2球目。肩口に入ってきたボール気味の内角直球を上からたたきつけて一、二塁間を抜いた。

 クールな男から飛び出したこん身のガッツポーズに苦悩が垣間見えた。開幕から8試合に先発出場したが、31打数6安打。打率は1割9分4厘。その時点で10三振は、広島のルーキー野間の11に次ぐ多さだった。次第に出番は減った。「プロに入って打てない時期が続いて、攻める気持ちを忘れかけていた」とベンチを温める日々に悔しさは日に日に増していった。その中でも「開幕当初はとにかく必死だったので周りが見えなかった。やっと少し見えるようになってきた」と好調な味方打線を凝視。イメージを持って辛抱強く出番を待っていた。

 闇の中で体に染み込ませてきたフルスイングが、不振脱却を助けた。2月の春季キャンプ。夜間練習も終わった真っ暗な宜野湾球場で1人バットを振り込んだ。全体練習、連日の居残り練習をこなしても、まだ練習に明け暮れた。「僕はみんなよりも力が劣っている。追いつき、追い抜くためには練習するしかない」。午後10時過ぎに宿舎からバット1本を担いで“専用球場”に向かい、素振りをするのを日課にしてきた。

 地道な準備が実り、無敗でここまできた相手ルーキー右腕に土をつけた。「同じルーキーには絶対に負けたくない。直球を待っていた。前に飛ばせば何か起きると思っていました」。会心の当たりではなかったが、倉本らしい泥臭い一打でたたきつぶした。

 ルーキーのプロ初の決勝打でチームも首位攻防を2勝1敗で勝ち越した。球団としては10年ぶりの5カード連続の勝ち越し。2位巨人とのゲーム差を2・5に広げ、前夜の逆転負けを即帳消しにした。中畑監督は「勝ち方を知らないチームだったから、結果をうのみにはしたくない。だから勝つことが一番いい。追いつかれた展開をはね返して勝った。この勝利は本当に大きいね」と納得顔で振り返った。「高木には倉本と決めていた。今日の2安打で2段階ぐらいステップアップしたんじゃないか」と采配もズバリ。暗闇から抜け出したルーキーが、DeNAを加速させる。【為田聡史】

 ◆DeNA・最近の5カード連続勝ち越し挑戦 10年と13年に4カード連続で勝ち越したが、5カード目は10年5月8、9日巨人戦で●●(ともに新潟)、13年9月10~12日巨人戦で●●●(新潟1試合、東京ドーム2試合)と、いずれも新潟が絡んだ巨人戦で阻止された。

<倉本寿彦(くらもと・としひこ)アラカルト>

 ◆生まれ 1991年(平3)1月7日、神奈川・茅ケ崎市出身。

 ◆球歴 藤沢リトル、寒川シニアから横浜高。同校3年時に春夏甲子園出場。筒香は1学年下。創価大ではヤクルト小川と同期でベストナイン(遊撃手)2度。日本新薬ではアジア大会日本代表。14年ドラフト3位でDeNA入団。

 ◆開幕スタメン 球団の新人遊撃では71年(大洋)の野口善男以来44年ぶり。

 ◆1本足打法 社会人時代に門田博光氏からアドバイスを受け、取り入れる。

 ◆登場曲 地元のスーパースター、桑田佳祐の「波乗りジョニー」。グラブに茅ケ崎の烏帽子(えぼし)岩の刺しゅう。

 ◆あこがれ 石井琢朗(現広島守備走塁コーチ)。同じ背番号5を背負う。初対面時は「鳥肌が立ちました」。

 ◆サイズ 180センチ、82キロ。右投げ左打ち。