ここで打つために、鳴りをひそめていたのか! いや、そんな余裕は阪神鳥谷敬(33)になかったろう。極度の打撃不振から打順1番に移って2戦目。巨人マイコラスに3打席連続三振とさっぱりだったが、同点においついた8回。なおも2死一、三塁で痛烈に一、二塁間を破った。14打席ぶりの安打で、8戦ぶりの打点が貴重なV打。目が覚めたぞ。

 この日一番の大声援をバックに、鳥谷は静かにうなずいた。殊勲打でたどり着いた一塁ベースだ。「プレーをしている最中は分からないけれど、終わってみればあそこで打てて良かった」。同点に追いついた8回2死一、三塁。巨人を倒すチャンスはここだった。

 「本来は先発の横山がいいピッチングをしていたし、なんとか勝ちをつけたいというのはあった。チームとしては勝てて良かった」

 カウント2-1からの4球目。巨人マシソンの149キロを鮮やかに右前へ運んだ。そこまで横山が奮闘していた3打席ですべて三振。初対戦のマイコラスに大苦戦していた。前日20日から任される1番打者としても、打線を引っ張れなかった。8回、バックスクリーンに映し出された打率は2割2分2厘。そんな逆境をはね返すところが、鳥谷のすごみだ。

 試合前練習でのキャッチボール。鳥谷はいつも右腕を背伸びするように頭上へと掲げてスローを開始する。ゆっくりと1球、2球、3球…。5球程度を独特のスタイルでこなすと、そこから力強いボールを投げていく。肩甲骨の動く範囲を広げることが狙いで、細部のケアにも気を配る。この練習法にはきっかけがあった。

 「昔、(元阪神の)矢野さんがやっていた。それを試しにやってみて…。故障をしにくくする意味もあったから続けているだけ」

 この日で連続試合出場は1509試合になった。その渦中、何度も好不調の波を乗り越える中で大切にしてきたのが「柔軟性」だった。周囲の声にも耳を傾け、効果を感じれば積極的に導入する。13年に選出されたWBC期間中には、珍しいトレーニング用具を知ると、導入できないかとすぐに阪神トレーナーへ連絡を入れた。今回の不振でもフリー打撃で右打席に入るなど打開策を模索。繊細かつ柔軟に向き合った成果が、勝負の打席で実った。

 「明日からの相手は首位ですけれど、この勢いで勝っていきたいと思います」

 試合後のお立ち台。クールな男は言い切った。4月には脇腹痛で苦しんだ時期もあったが、シーズンは残り100試合もある。逆襲の先導人はキャプテンしかいない。【松本航】

 ▼阪神鳥谷が1打席目から3連続三振のあとに決勝適時打。鳥谷の1打席目からの3連続三振はプロ7度目で、これまでは3三振のままで終了が3試合。4打席目以上立ったケースでは、4連続三振を喫した後に投犠打の試合が1。一塁ゴロの後に2連続四球が1。10年7月20日広島戦(甲子園)では4打席目で二塁ゴロの後に5打席目で左翼にサヨナラ本塁打。3連続三振の後に安打を放ったのは、それ以来2度目となった。