15安打の猛攻で暑気払いだ。阪神マット・マートン外野手(33)が、4連敗阻止の先頭に立った。2回、決勝点となる6号先制ソロを左越え放つとバットが打ち出の小づちになった。振れば当たる今季初の4安打。7人が打点をマークしたロード初勝利で2位に浮上した。汗ダラダラでも、気持ちは爽快な夜だ。

 両手に伝わる振動が心地よかった。マートンは左翼へ向かった打球を見つめ、ゆっくりと走りだした。敵地のため息が重なり、どよめきが起こる。2回1死走者なし。2年ぶりの対戦となった広島中村恭相手でも、本来のスイングがあれば何も問題なかった。

 「甘いボールをいいコンタクトで捉えられたね。第1打席のファーストスイングから、いいスイングができたよ!」

 左翼2階席にぶち当たる6号先制ソロに、思わず自画自賛だ。満面の笑みを浮かべてダイヤモンドを1周した。自らへの景気づけだけでなく15安打8得点、7人が打点を挙げる猛攻の号砲になった。その後も右へ、真ん中へと安打を積み上げる。5回以降の打席は4番ゴメスが出塁した後の「チャンス拡大役」で3安打だ。ちょうど1年前の14年8月5日ヤクルト戦(神宮)以来となる自身最多タイの4安打。打率も開幕5戦目だった4月1日ヤクルト戦以来の2割8分超え(2割8分3厘)を記録だ。

 繊細な打撃感覚は小道具にも現れている。通常は投手が使用する右手親指の「指当て」を、マートンは野手では珍しく使用する。黒色の筒状になっていて、打席に入る度に手袋の上からスッポリと装着。右投手が商売道具の右手を保護するように、マートンもボールを捉える際のケガ予防が1つの目的だ。だが、理由はそれだけではない。

 「僕は右手でバットを握るとき、親指と人さし指の間(のくぼみ)に空間を作りたいんだよ。指当てをつけると、それがクッションになって第1関節のところだけをバットに付けられる。普通の人と違うけれど、それが僕の感覚なんだ」

 1回のスイングをそこまで突き詰めるからこそ、不振時は神経質になる。だがそんな姿とも、もうオサラバだ。理想の打撃が出来ていることを実感し「自分でも、交流戦が終わってからいい状態が続いていると思うよ」と笑顔で帰りのバスに乗り込んだ。

 「一番大事なのは、チームが勝つこと。今日はそれができて良かったよ」

 自分のコントロールに精いっぱいだった気持ちは今、チームの勝利に向いている。連敗を3で止めた広島2日目の夜。過酷なロードの突破へ、マートンの4安打には1勝以上の価値が詰まっている。【松本航】

 ▼マートンの1試合4安打は自身最多タイ。14年8月5日ヤクルト戦(神宮)以来、17度目。なお今季能見が先発した試合で、打率3割3分8厘(65打数22安打)で、他の先発投手での2割7分から急上昇する。今季通算8度の猛打賞のうち、能見先発時に半分の4度を記録と、固め打ちも目立つ。

 ▼阪神の1試合15安打は、6月3日ロッテ戦(甲子園)での17安打に次ぎ、今季2位。なお5日の試合では鳥谷(2打点)大和、ゴメス、マートン、新井、江越、鶴岡(各1打点)の7人が打点を記録。これは14年9月19日中日戦(甲子園)での福留(3打点)鳥谷、ゴメス、マートン、新井貴、鶴岡、藤浪(各1打点)以来。