涙でバトンを託した。楽天斎藤隆投手(45)がソフトバンク24回戦で現役最後の登板に臨んだ。9回から打者1人限定でマウンドに上がると、3球三振を奪った。投球の途中からは涙を流し、24年間のプロ野球人生にピリオドを打った。若手に道を譲るという理由で引退を決断。日米通算112勝139セーブの名投手は最後のマウンドを終えると、12球団最年少の守護神、松井裕ら若い投手陣に思いを引き継いだ。

 何度も、何度も、大きく息を吐いた。斎藤はマウンドでこみ上げてくる感情をこらえ切れなかった。真っ赤になった目から涙があふれた。9回に訪れた打者1人限定の最終登板。対戦打者のソフトバンク細川のおとこ気に胸を打たれた。「細川が空振りしてくれて、ヤバイと思った」。2球目に投じた外角137キロ直球にフルスイングで応えてくれた。最後は高め138キロの直球で日米通算1731個目の空振り三振。「本当に幸せな野球人生だった」としみじみ振り返った。

 マウンドで戦う姿を見せ続けた。13年に楽天で国内復帰。11年の震災で故郷宮城は大きな被害を受けた。自らが何ができるか。答えは野球だった。「ボロボロの体を引きずって、皆さんに投げる姿を見せれば勇気になるんじゃないか」。背中でファンを、そして仲間を鼓舞し続けた。しかし、引き際が来た。自らがいることで若手の出場機会を奪ってしまう。この日までわずか2試合の出場にとどまり、「この年齢で戦力になっていない」と痛感した。

 去っていくからこそ、思いを託した。登板を終えると、マウンドで松井裕を迎えた。「わざわざ後ろを投げたいと言ってくれた」。体のケアやメジャーでの経験を伝えた若手は12球団最年少の守護神に成長した。右肩を2度たたき、世代交代のバトン代わりに白球を渡した。「あいつらに良いチームを作ってもらいたい」と万感の思いを込めた。

 最後のスピーチでも後輩への思いを告げた。「日本一という栄光をつかむことができた。あの優勝は復興を目指す多くの方々とともに踏み出した大きな1歩になったと信じています。熱い声援を魂に変えてこのグラウンドとマウンドに置いていきます。後輩に全ての思いを託して、第2の人生を歩んでいきます」と。球団は将来の監督候補として期待を寄せる。魂を受け継いだ後輩とともに、再び楽天を日本一に導く姿を誰もが待っている。【島根純】