不死鳥だ。阪神鳥谷敬内野手(35)が復活の猛打ショーを演じた。「3番・遊撃」で9試合ぶりにスタメン復帰したDeNA戦。初回、右翼線二塁打で先制点を呼び込み、一気の3打席連続安打。不振によるベンチスタート期間を経て、鮮やかによみがえった。チームの連勝は3で止まったが、苦闘を乗り越えたキャプテンが逆襲の先頭に立つ。

 当たり前の光景はもう、当たり前ではない。1回2死。3番遊撃鳥谷が打席に入ると、黄色く染まった左翼席から温かな拍手が降り注いだ。9試合ぶりの先発復帰。初回のバッターボックスに鳥谷が、いた。

 「いつでも出られる準備はしていましたから」

 言葉通り、必要以上に気持ちを高ぶらせすぎることもなく冷静に、スタメン鳥谷は再スタートを切った。第1打席はカウント1-2と追い込まれながら、山口の内角低め148キロをバットの芯で引っ張った。重量感たっぷりの直球を力で押し返し、右翼線にライナーで二塁打。4番福留の右翼線への適時二塁打で先制ホームを踏んだ。内角直球に苦戦する場面が目立った今季を思い返せば、この1本だけでも復調の証しといえる。

 「(先発は)自分が判断することじゃない。でも、状態は悪くなかったので」

 3回の2打席目は高めスライダーに詰まるも右前に落とす。5回は外角高め146キロをライナーで中前にはじき返した。6月4日西武戦以来となる今季3度目の猛打賞。金本監督は試合前に鳥谷本人と話し合ったことを明かした上で「自信も戻ったようだし、その通り3本打ってくれた」とホッと胸をなで下ろした。

 7月24日広島戦、フルイニング出場が667試合で止まった。覚悟はしていた。胸中は周囲の想像より、はるかに穏やかだった。笑顔も増えた。クールの仮面をはぎ取れば、人一倍責任感が強く負けず嫌いな男だ。ベンチスタートの8試合で9打数6安打。「鉄人」という、誇れる看板を1度下ろし、少しだけ肩の力が抜けたのかもしれない。

 「プロに入ってから、オフもまったく何も体を動かさなかったのは最長でも1週間ぐらいかな…」

 ストイックすぎる生活を振り返り、照れ笑いしたこともある。13年目。妥協なき準備を続けてきた自負がある。「そこを目指してやっているんで」。フルイニング出場が途切れたら、もう1度試合に出続ける道を走り始めるだけだ。

 金本監督 トリのためにも今日は勝ちたかったけどね。3本出て、気分的にも前向きに、モチベーションも変わってくると思う。

 指揮官はキャプテンの心情をおもんばかったが、おそらくもう心配は無用だ。

 鳥谷 結果がすべて。勝つためにやっている。また明日、勝てるようにやっていくだけです。

 スマートでインパクトの強いスイング、無駄なく堅実な遊撃守備。そして闘争心。今度こそ、鳥谷は、鳥谷に戻った。【佐井陽介】