広島が「SMBC日本シリーズ2016」第5戦で敗れ、2勝3敗で日本ハムに王手をかけられた。移動日を挟んで明日29日からは本拠地マツダスタジアムで戦う。4番から6番に降格し、好機で凡退した新井貴浩内野手(39)も気持ちを切り替えた。崖っぷちから、男たちが立ち上がる。

 ベンチから1歩、2歩出てきた。魂と魂のぶつかり合い。両軍は激しくにらみ合った。同点の9回2死一、三塁。投手中崎が日本ハム岡に死球を与えた場面。岡が中崎に数歩近づき、両軍ベンチから選手がグラウンドに出ると、新井も鬼の形相で出て来た。全身全霊をかけた真剣勝負-。サヨナラ満弾という幕切れに終わったが、気持ちは切れていない。新井は落としていた視線を上げ、懸命に前を向いた。

 「あと1試合で終わるのか。2試合やるのか。もう、明日しっかり準備してやるしかない。もう1回。強い気持ちを持ってやらないといけない」

 責任は痛いほど感じている。「4番一塁」を好調エルドレッドに譲り、「6番指名打者」での出場となった第5戦。それでも好機で回ってくるのが今季、広島の中心に座り続けた新井の宿命だろう。しかし、微妙なずれで結果が出ない。何度も悔しそうな表情をつくり、口を真一文字に結んだ。

 先制点を奪った1回には2死一、二塁で中飛に倒れた。2打席目だった3回1死一塁では二塁への併殺に倒れた。なんとかしたかったかと問われ「そうですね」と返した。

 このまま終わる男ではない。新井の野球道具には背番号の背景に「不死鳥」が描かれている。逆境はエネルギー。絶体絶命に追い込まれてから、そこから強さを発揮する。打撃でも最後に安打を打った。9回の打席。体を投げ出して打球を右翼線にはずました。日本シリーズ2安打目。原点の右への打球を必ずきっかけにしてくれるはずだ。

 王手をかけられてから臨む地元での戦い。緒方監督が「何よりのアドバンテージ」と語る大声援が待っている。敵地で勝てない“内弁慶シリーズ”なら、それでもいい。傷だらけのカープナインには、地元の声量が何よりの後押しだ。徳俵は踏ん張るためにある。新井の真の力、そして何より「広島力」が試される。【池本泰尚】