日本ハム陽岱鋼外野手(29)が7日、今季取得した国内フリーエージェント(FA)権の行使を表明した。札幌市内の球団事務所で会見に臨み、目に涙をためながら移籍を決断したことを明かした。11年在籍した球団への愛着はあるが、若手主体のチーム構成でもあり、出場機会、条件面も考慮し、新天地を求める道を選んだ。オリックス、楽天などが動向に注目しており、複数球団による争奪戦となりそうだ。

 苦渋の決断だった。FA権行使を表明し、退団を決めた陽岱鋼の言葉には、愛着のある日本ハムへの思いがあふれていた。「ドラフト1位で指名してくれて、自分のプロ野球人生を開いてくれた。僕も妻も、娘も、北海道が大好きです。一緒に野球をやってきた仲間にも感謝しかない。11年、楽しかったです」。こみ上げる熱いものを静めるため、時折、言葉を詰まらせた。夜も眠れず、最終的に決めたのは「昨日(6日)の朝6時くらい」。それでも、「選手として成長するきっかけにもなる」と、新たな人生に踏み出すことを決めた。

 日本ハム一筋11年。2011年からレギュラーに定着し、13年からは新庄、森本と引き継がれてきた背番号「1」を継承した。人気、実力ともにチームの顔のひとり。近年は右肩痛や下半身の不安にも悩まされてきたが、今季は130試合に出場し、キャリアハイに並ぶ打率2割9分3厘をマーク。9月21日ソフトバンクとの天王山では、あわやサヨナラ打の大飛球を背走して好捕し、リーグ優勝の立役者となった。

 日本シリーズ終了翌日の10月30日に、球団幹部と会談し、条件面の提示も受けた。だが「ファイターズは若いチーム。来年の戦力の中に、自分の名前はない」。平均年齢の若いチーム構成。日本シリーズでも出番は少なく、来季のチーム構想を自身の頭で思い描いたとき、連覇へ向けて貢献できる境遇にないと判断した。

 明後日10日に公示され、翌11日から他球団との交渉が解禁される。走攻守3拍子そろった能力に加え、生まれ故郷の台湾を含め人気度も高い。オリックス、楽天などは早くから調査に乗り出しており、争奪戦になるとみられる。「どこにいっても野球をやるだけ。全部を見てもらえたらうれしいです」。熱烈な応援を受けた日本ハムのファンへは「申し訳ない気持ち」と話し、予定されている優勝パレード、ファンフェスティバルへも参加を希望している。応援してくれたファンと直接対面し、区切りをつける。陽岱鋼が一野球人として、大きな勝負に出ることを選んだ。【本間翼】

 ◆日本ハムのFA宣言 過去のべ16人が宣言している。金石(95年)田中幸(97年)奈良原(00、04年)芝草(02年)が残留。国内移籍は河野(95年=巨人)片岡(01年=阪神)小笠原(06年=巨人)藤井(09年=巨人)森本(10年=当時横浜)鶴岡(13年=ソフトバンク)大引(14年=ヤクルト)小谷野(14年=オリックス)。岡島(06年)建山(10年)田中賢(12年)が米球界に移っている。

<陽FA一問一答>

 -いつ決断したか

 陽 日本シリーズ終わって、残留しようと思ったけど、最後の最後、昨日、朝に決めたくらい。

 -球団に伝えたことは

 陽 11年前、自分がプロに入ると思わなかったので。11年間育ててくれた感謝の気持ちしかない。

 -球団からは

 陽 「卒業おめでとう」の言葉。僕にとって深い意味がある。正直、僕も寂しいですけど、ファンのみなさん、チームメート、コーチ陣、一緒に野球をやってきたみなさんに感謝の気持ちしかない。

 -残留という選択肢はない

 陽 そうですね。チームのことも考えて。日本一のチームですから、ここに自分がいたらおかしいと思う。

 -家族には相談した

 陽 もちろん妻にも相談した。パパがどこに行ってもついている。心配しなくていい。好きな野球をやればいいと。自分の野球人生1回しかない。つらい決断だったけど、あと何年野球やるかわからないけど、家族のためにも自分のためにも考えて決断した。

 -他球団に評価を聞く上で重視する点は

 陽 ないですね。どこに行っても野球をやるだけじゃないですか。

 -北海道のファンへ

 陽 こういう決断をして申し訳ない気持ちはありますが、自分の野球人生あと何年かしかない。これから自分のプレーでファンのみなさんに恩返ししたい。11年間応援してくれて本当にありがとうございます。