強靱(きょうじん)な心と体で、阪神伊藤将司投手(25)が今季9勝目を手にした。

「立ち上がりから自分の中でも調子がいいと分かったので、行けるところまでしっかり投げようという気持ちでした」。4回まで完全投球と圧倒し、7回4安打無失点。7回無死一塁で4番鈴木誠を遊ゴロ併殺に仕留めるなど、主軸にも強気に立ち向かった。

痛いアクシデントにも動じない。1-0の7回2死。坂倉の強烈なライナーが左臀部(でんぶ)を直撃し、顔をゆがめ、もん絶した。いったんベンチに下がったが、球場がざわつく中ですぐにマウンドへ。「ここまで来たら気合だと思ったんで。あとは根性で投げました」。迎えた菊池涼をチェンジアップで三ゴロに仕留めた。4回にも一塁ベースカバーに入り、マルテの送球を「素手キャッチ」。最後まで体を張って0を並べた。

お立ち台で打球直撃について聞かれた左腕は「あ、大丈夫でした」とケロリ。父正宏さんが千葉県で牛乳販売店を営み、幼い頃から牛乳を飲むのが日課だった。野球と出合わなければ「ゴルファーを目指してるか、お父さんの牛乳屋を継いでるか…」。今も寮にある約200ミリリットルの紙パック牛乳を1日2本、朝にゴクゴクと飲み干している。「まだ生きてて骨折とかしたことないんで、そういうのは牛乳からきてるのかなと思います」。気温16度。冷たい風が吹いたこの夜も、ユニホームは半袖だった。「全然冬でも半袖で投げられます。半袖の方が投げやすいです」。ケガ知らず、寒さ知らず。骨太の丈夫な体はプロで戦う大きな武器だ。

阪神の新人左腕では67年江夏の12勝以来、54年ぶりの9勝目。規定投球回にはわずかに届かないが、防御率は“隠れ2位”で10月は驚異の0・82だ。「あと1勝で、2ケタ行けるので、次の試合もしっかり投げて、達成できるように頑張りたい」。リーグ終盤戦もパワー全開。最後まで元気に腕を振る。【磯綾乃】