<オープン戦:阪神7-3広島>◇5日◇京セラドーム

 アニキが08年初実戦でいきなり復活弾だ。阪神金本知憲外野手(39)が5日、昨年12月に死去した島野育夫前総合特命コーチ(享年63)の追悼試合となった広島とのオープン戦(京セラドーム大阪)に、左ひざ手術後、初めて4番DHとしてスタメン出場。監督に直訴しての1打席限定出場だったが左翼へ逆転2ランを放ち、スタンドを驚かせた。最高の形で島野氏を天国に送り出した金本は「今日はどんな形でも出たかった。島野さんの顔が思い浮かびました」。開幕を3週間後に控え、ついに鉄人が全開モードに突入した。

 ここまで本隊とまったく別メニューで調整している男とは思えなかった。左ひざ手術から復帰しての今年初打席。熱い思いがバットに乗り移る。真芯(ましん)でとらえた打球は大きな弧を描き、瞬く間にレフトスタンドへと吸い込まれた。

 「冗談で『ホームラン打つ』とは言ってたけど、まさかねえ。芯に当たったんで自分でもビックリですね。スタメンも代打もないと言われていたけど、今日はどうしても出たいという思いがあった。ベースを走りながら(島野氏の)顔が浮かんできました」

 1打席に全てを賭けていた。1回2死三塁、広島先発大竹の3球目を金本は見逃さなかった。甘く入った144キロの直球をフルスイングすると打球はスタンドイン。大歓声を背に三塁ベースを回ると、自然と笑みがこぼれ出た。

 志願の強行出場だった。当初は、ベンチ入りのみの予定。トレーナーやコーチ陣に出場をお願いしても反対されていた。納得できなかった金本は、吉竹コーチとともに、試合前に食堂で昼食をとっていた岡田監督に直談判。熱意の説得で急きょ、メンバー表を書き換えてもらい、スタメンに名を連ねた。

 状態のいい左ひざに、3日前にはフリー打撃で試合用バットを握り、試合出場を心に秘めた。試合前の追悼セレモニーでは、バックスクリーンに流れる映像をじっと見つめ、亡き島野氏の姿を目にしっかりと焼き付けた。どんな時でも全力プレーが金本のモットー。野球に対して同じ考え方を持つ大先輩の前で、どうしても全力で挑みたかった。

 「内野ゴロを打って一塁に全力疾走した時に、一番ほめてくれたのが島野さんだった。(今日も)そういう姿を見せたかった。でも本塁打が打ててよかったです」

 左ひざの手術から138日。誰もが驚く復活弾だ。だが、ここまでの道のりは決して平たんではなかった。キャンプインを単身ロサンゼルスで迎え、痛みと向き合いながらのリハビリが続いた。ひざの状態も日替わりで先の見えない現実。それでも、いつか復活の打席に立てる日を思い描き、強い精神力で耐え抜いてきた。

 初実戦は16日の巨人戦(東京ドーム)の予定だったが、この日だけは特別だった。そしていきなりの本塁打。予想以上に早い仕上がりに、鉄人も思わずほおを緩めた。

 「まだこの1打席では何ともいえないが、思ったよりも順調にきている。打つことに関しては負担はほとんどない。開幕はご心配なく。期待してほしいと思います」

 これぞスターの真骨頂。大事な試合での一発で復活を大きく印象づけた。もう心配はいらない。開幕まであと22日。「4番金本」が帰ってくる日は、そこまできている。【福岡吉央】