<西武7-2ソフトバンク>◇29日◇西武ドーム

 ついにトンネルを抜け出した。西武石井一久投手(35)が6回2死までノーヒットノーランの好投で、今季初勝利を挙げた。22日のオリックス戦ではプロ最短の1回5失点KOの屈辱から立ち直り、チームは4カードぶりの同一カード勝ち越しで、5割に復帰した。ヤクルト時代の恩師、楽天野村監督が1500勝を達成した日に、それを祝うかのような快投だった。

 ポンポンとストライクを先行させた。野村監督仕込みの投球が、石井一にリズムを生んだ。「言葉はもう覚えていないけど、体にしみついてます」。高卒のルーキー時代から「初球はストライクを取れ」と口を酸っぱくして言われたことが、35歳の左腕の体を無意識のうちに動かした。6回2死、川崎に二塁打を打たれるまでノーヒット。最高の投球で今季初勝利を飾った。

 22日のオリックス戦ではプロ入り最短の1回でKOされた。登板翌日、ブルペンに入り、崩れたフォームの修正に努めた。横変化だったスライダーを縦変化に変えるため、腕の位置を高くした。「横の変化だと打者に線でとらえられるけど、縦だと点になる。その分、空振りが多くなるから」。その狙いが的中し、快投につながった。

 自分で投球フォームの修正ができるように、繊細な違いが分かる男だ。それは指先だけでなく、舌先にまで及ぶ。先日、イタリア料理店で出された肉を「柔らかいから山形牛でしょう」と言い当て、店員に驚かれた。松阪牛でも但馬牛でも好物の肉の違いは分かるという。西武ドームで強いのも、石井一にしか分からない何かがあるのかも知れない。お立ち台ではファンに向かって「帰りに春を感じて帰ってください」と呼びかけた。

 「自分の中では、これ以上ダメな投球は許されないと、危機感じゃないけど、1歩踏み出そうと気合が入っていた。それがボールに伝わってくれた」とこの日の勝利を喜んだ。気持ちを前面に出した投球が、持ち味を復活させた。今季初勝利を挙げ、呪縛(じゅばく)を解いて迎える次回登板は5月4日の楽天戦(西武ドーム)の予定。

 「1500勝?

 ぼくも少しは貢献できたかな。1500敗の方にも。次の対戦では野村さんの負け数を増やせるように頑張ります」。関係できたことが幸せだという恩師から、今季2勝目をもぎ取りにいく。【竹内智信】

 [2009年4月30日8時16分

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