<パCS第2ステージ:日本ハム2-3楽天>◇第3戦◇23日◇札幌ドーム

 神の子神話は終わらない。楽天の田中将大投手(20)が日本ハム打線を6安打2失点に抑えて完投し、チームにクライマックスシリーズ(CS)第2ステージ初勝利をもたらした。負ければ野村監督ラストゲームとなる大一番で、CS2戦連続完投勝利を飾った。試合前の野村監督からのぶっ倒せ指令に、気迫の126球で応えてみせた。チームは1勝3敗(日本ハムのアドバンテージ1勝を含む)とし、逆転の日本シリーズ(31日~)進出に望みをつないだ。

 これが野球に愛された者の力だ。田中は追い詰められた状況で、すべてを解放した。1点差に迫られた直後の8回2死三塁。稲葉へ最速153キロを含む150キロ超の速球を4球連続で投げ込んだ。「あそこを乗り越えれば勝てると思った。振り絞りました」。四球で歩かせたが、続く高橋をスライダーで空振り三振に仕留めると、鬼の形相で言葉にならない叫び声を発した。

 初戦のサヨナラ負け、がけっぷちの連敗に沈むチームに「自分が雰囲気を変えてあげられればと思った」。すべて背負ってでも勝てるほど、この男は雄大だった。

 「1、2回は自分でも硬かったと思う。今日負ければ終わってしまうので、いつもと違う感じがあった」と明かした。違和感の中で2回、高橋に先制弾を浴びたが、ここから本来の自分を取り戻した。三振は5個と少なかったが直球、スライダー、フォークをテンポよく投げ分け、味方打線の援護を引き出した。

 見えない力が田中には備わっている。球団創設年から在籍する橋上ヘッドコーチは「実力的には岩隈の方が上。でも田中で勝つと、何かが変わるかもしれないという雰囲気になる。今の楽天になったのは田中が入団してからだと思う」と振り返る。この日は山崎武も「1年目みたいにほえとったな。やっぱり持ってるわ」とほほ笑んだ。創設1年目は真っ暗闇。野村監督が就任した2年目も、まだ光は見えなかった。そして3年目。オーラをまとった男の出現が、弱小球団を生まれ変わらせた。

 本人も自覚している。今季は監督通算1500勝、CS第1ステージ突破など、大一番で出番が回ってきた。入団1年目、白星を呼ぶ勝ち運に、野村監督からは「神の子」と呼ばれた。「運?

 持ってる方だと思いますよ」。次々にやって来る重圧をはねのけることで、ヒーロー「マー君」は、大投手「田中」へと成長を続けている。

 試合前、教え子の稲葉、坪井の訪問を受けた野村監督は「お前ら今日で終わると思って来たんだろって言ったら『いやいや』って言ってた。だからマー君に、あいつらぶっ倒せって言ったんだ」。田中は「頑張ります」とだけ答え、投球でも応えた。

 野村監督は「マー君、頑張ったね。マー君で負けてたらみんなも納得するだろう。1面はマー君やろ?

 おれはいいや」と目尻を下げた。田中は「まだ全然チャンスがあると思う。明日はベンチで待機して、いつでも行けるようにしたい」と言葉に力を込めた。あきらめることを知らない若者の目には、まだ日本一への道がしっかりと映っている。【小松正明】

 [2009年10月24日9時27分

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