<ヤクルト2-9阪神>◇28日◇神宮

 あっぱれアッキャマン!

 虎のドラフト4位・秋山拓巳投手(19=西条)が、プロ2試合目で初勝利を挙げた。ヤクルトを相手に5回5安打1失点。2、3回と2度の満塁ピンチを断ち、先輩たちの好守にも支えられて、うれしいプロ1勝を手にした。巨人が敗れ、阪神は3日ぶりに首位を奪回。苦しい虎投事情を救った孝行息子が、チームにこれ以上ない勢いをもたらせた。

 勝利の瞬間が近づくと、ベンチの秋山の大きな瞳は、わずかに赤みを帯びていた。「初めての勝利なので、すごくうれしいです」。ゆっくりと喜びをかみ締めた。

 右手で強く拳を握った。2点リードの5回2死一塁。相川への144キロが右中間に弾かれた。だが、振り返るとマートンがダイビングキャッチ。その瞬間、プロ初勝利の権利を手中にした。

 粘りこそが、勝利への執念だった。毎回のように得点圏に走者を背負った。2度の満塁のピンチも最少失点で切り抜けた。5回5安打1失点。阪神で高卒1年目の勝利は、86年の遠山以来24年ぶりの快挙。チームにとって8試合ぶりの先発投手の勝利は首位奪取につながった。

 勝ちにこだわった。「いいピッチャーと、勝てるピッチャーとは違うんだ」。西条高2年の夏、田辺行雄監督(47)の言葉を今でも忘れていない。2軍で初勝利を挙げるまでに5試合を擁したが、焦りはなかった。「2軍の間は防御率が気になりますけど、1軍に上がったら勝ちにこだわりたいです」。だから涙があふれた。

 初登板だった21日巨人戦(東京ドーム)は、6回2死から逆転打を許した。「よくやった」という言葉を聞くと、余計に悔しさがこみ上げた。「1年目ということに言い訳をせずに、チームの勝利に貢献するために、もっと長いイニングを投げたいです」。浮かれることはなかった。

 「5回を投げているときに“あ、そうだ”と思いました」。初勝利を目前にして頭をよぎった。もう1つ、勝たなければならない理由があった。前日27日は、母みゆきさん(45)の誕生日。「昨日は母親の誕生日だったので。『勝ったよ』と言ってプレゼントしたいと思います」。緊張と気恥ずかしさで声が震えた。

 登板前にみゆきさんから「誕生日なんだけどなあ…」と短いメールが届いていた。だが、返信はしなかった。これまでも、1度も誕生日を祝ったことはない。面と向かって感謝の気持ちを伝えたこともなかった。

 1歳の誕生日に、おもちゃのバットとボールを買い与えられた。2歳のときにはバットを振り回し、小学校に入るまでは、どこへ行くにもグラブを握っていた。プロ野球選手。秋山にとっても、両親にとっても夢だった。19年かけて、最高の贈り物が準備できた。最初にもらったプレゼントを、夢の舞台でつかんだウイニングボールに変えて母の元に返すことができた。【鎌田真一郎】

 [2010年8月29日11時5分

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