<阪神2-3ヤクルト>◇11日◇甲子園

 まさか、球児が…。阪神藤川球児投手(30)がヤクルト戦2点リードの8回に登場。ホワイトセルにプロ初の逆転本塁打を浴び、5年ぶりの3失点で救援に失敗した。勝ちゲームが暗転し、チームは引き分けを挟んで3連敗。3連勝の首位中日に1・5ゲーム差に離された。3位巨人との差も1に接近。ショックを振り払い、ここで踏みとどまるしかない。

 甲子園が静まり返った。守護神藤川は両腕をひざの上につき、左翼ポール際から視線を外さなかった。1点差に迫られ、なお8回2死三塁。ホワイトセルへの2球目だった。狙いは外角高めのボール球。だが、わずかに指先が狂った150キロは、外角低めのストライクゾーンへ。打者の体勢は崩したが、低空ライナーはフェンスを越えた。逆転2ラン。05年6月8日オリックス戦(大阪ドーム)以来の1イニング3失点。逆転弾を浴びるのは、プロ12年目で初めてだった。

 藤川

 こういう仕事だから、仕事ができずに悔しいです。2点を守れないクローザーじゃダメだね。疲労?

 それはない。ない。大丈夫。

 中日との首位攻防3連戦は7日の第1戦、9日第3戦で2イニングを投げた。「それは勝たないといけないから」。誰よりも、自らの使命を心得ている。中1日で投手戦となったこの日も、声がかかったのは8回だった。予定は2イニング。05年のリリーフ転向以来初となる、4戦連続イニングまたぎを託された。

 いきなり不穏な空気が漂った。初球の151キロが代打福地のかかとを直撃。続く青木にも135キロフォークを左前に運ばれた。1点もやりたくない。修羅場をくぐってきた男は、そう思ったに違いない。無死一、二塁。田中浩のバントを処理するブラゼルに三塁送球を指示。実際は一塁送球アウトとなったが、1死二、三塁の飯原の二ゴロも、実際に送球された一塁でなく本塁送球を指示していた。逆転され、1イニングで無念の降板となった。

 まさかの敗戦後、久保投手コーチは語気を強めた。「球児で負けに行ったんじゃない。勝ちに行ったんや!」。引き分けを挟んで3連敗。首位中日とは1・5ゲーム差をつけられた。それでも藤川は「また、明日もあるし、終わるまでちゃんとやるだけ」と前を向いた。1度の失敗で、落ち込んでいる暇はない。激しい優勝争いの中、守護神の、そしてタイガースの底力が試される。【鎌田真一郎】

 [2010年9月12日11時32分

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