ロンドン五輪イヤーの12年ヤクルトに「ボルト」が現れた。11日、埼玉・戸田のヤクルト戸田球場で新人合同自主トレが始まった。ドラフト3位の比屋根渉外野手(24=日本製紙石巻)は50メートル5秒9の俊足が最大の魅力。男子100メートル世界記録保持者ウサイン・ボルト(25=ジャマイカ)は憧れの存在で、初日から「一芸」をアピール。視察した小川淳司監督(54)から今春キャンプ1軍スタートを確約された。

 足が売り。球界のボルトを目指す異色の新人が、ヤクルトに加わった。新人合同自主トレ初日。約2時間の練習を終えた比屋根は「自分がランナーに出たら目を離さずに見て下さい」と訴えた。球界でも希少価値が高い一芸選手として、プロ生活を生き抜く覚悟を宣言した。

 沖縄・東風平出身。幼少時から大自然の中で、砂浜を走り込んだ。50メートルは5秒9。東風平中3年時には200メートルで県大会3位に輝いた。400メートルリレーでは地区大会3連覇。「野球をやっていない人には負けたくなかった」と意地があった。その道でも生きていけるほどの走力だが、すべては野球のためだった。

 今でも陸上大会のテレビ中継などは欠かさずに見ている。100メートル、200メートル世界記録保持者のボルトの走りには目を奪われた。「興奮します。自分が走ったような感じで、鳥肌が立ちます」。足があったからプロの道をつかんだ。目指す頂は、ジャマイカが生んだ英雄のように高く置く。

 昨季「1番中堅」を務めた青木がブルワーズに移籍濃厚のため、外野のポジションは1つ空く。比屋根は「ポスト青木」候補の1人になる。俊足を生かし、守備範囲も広い。小川監督は新人合同自主トレ初日に印象に残った選手として即答。「比屋根は足が速いですね。足の戦力としても十分」と、1軍キャンプ参加を即決した。

 沖縄キャンプ参加は、里帰りにもなる。「祖父母や両親にも見てもらいたいです」と言う。盗塁増を目指し、社会人2年目だった昨季は西武片岡のスタートを研究した。オープン戦を含めて44試合で42盗塁を記録。「足で(プロに)入れてもらった。それがなかったら戦力外です」。自分の存在を示すため、「ボルト」比屋根が、ダイヤモンドを走り回る。【前田祐輔】

 ◆比屋根渉(ひやね・わたる)1987年(昭62)6月20日、沖縄・東風平生まれ。沖縄尚学-城西大を経て、日本製紙石巻に入社。家族は両親、姉、妹。180センチ、70キロ。右投げ右打ち。<過去の俊足選手の愛称は…>

 ◆飯島秀雄(元ロッテ)

 100メートル10秒1の日本記録保持者(当時)で「ロケットスタート」の異名を取る。68年ドラフト9位で入団、71年まで3年間で23盗塁。

 ◆広瀬叔功(元南海)。当時の鶴岡一人監督に「チョロ」と命名された。鶴岡監督が「いつもチョロチョロしとる」と言ったのが理由とされる。通算596盗塁で成功率82・9%。

 ◆福本豊(元阪急)。83年に当時世界記録の通算939盗塁を記録、「世界の盗塁王」が代名詞に。通算1065盗塁。

 ◆松本匡史(元巨人)。82、83年の盗塁王で83年はセ・リーグ記録のシーズン76盗塁。水色の手袋を愛用した「青い稲妻」。

 ◆赤星憲広(元阪神)。01年の1年目から5年連続盗塁王。名字から「レッドスター」「赤い彗星(すいせい)」。